JR九州グループが、佐賀県嬉野温泉に新しくオープンした湯宿「嬉野 八十八(うれしのやどや)」。美しい和の空間と全客室に源泉100%かけ流しの温泉を完備するこの建物の完成に、東急建設の提案と施工の力が活かされています。

室町時代を起源とする「うれしの茶」や、日本三大美肌の湯として知られる佐賀県嬉野温泉。2022年9月には西九州新幹線の嬉野温泉駅が開業しさらなる活性化が期待されるこのエリアに、2か所の豊富な湯量を持つ新たな温泉施設「嬉野 八十八(うれしのやどや)」が誕生しました。
発注者である九州旅客鉄道株式会社は、脱炭素社会の実現に意欲的に取り組んでおり、新たに建設する宿泊施設にも高い環境配慮を求められておりました。また、全室に源泉100%かけ流し温泉を完備すること、お茶をテーマとした優雅な和の空間を実現することなど、宿泊利用されるお客様を想定し、建物の至るところにさまざまな工夫が必要でした。
優雅な和の空間
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ギャラリー -

客室
数百年の歴史と奥深い味わいを伝承し続けているうれしの茶を堪能できる
工事概要
- 建物名称
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「嬉野 八十八(うれしのやどや)」
- 所在
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佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿丙2400-30
- 発注
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九州旅客鉄道株式会社
(運営企業)JR九州ホテルマネジメント株式会社
(温泉熱事業 設計含む)京葉ガスエナジーソリューション株式会社
- 構造
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母屋RC造4階、離れ木造平屋
- 延床面積
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5,530.61㎡
- 設計監理
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企画・デザイン:株式会社太極舎
設計:東急建設株式会社
- 施工
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東急建設株式会社
- 工期
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2022年6月~2023年8月
脱炭素社会を目指すお客様の課題解決へのご提案
環境に配慮した建物を実現するため、温泉宿の特性を生かし源泉熱を利用するバイナリー発電を提案しました。さまざまな検討を重ね、最終的には京葉ガスエナジーソリューション株式会社の協力のもと、環境省の「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業(温泉熱等利活用による経済好循環・地域活性化事業)」として採択されました。
温泉熱は施設の自家用発電のほか、給湯など多段階で利用されます。加えて上記の事業については京葉ガスエナジーソリューション株式会社が主体となり実施し隣接地域にも活用されるため、脱炭素への寄与に加え経済性にも優れた先進的なエネルギーシステムとなりました。
全室にかけ流しの源泉を届ける設計・施工の工夫
湧き出た温泉の熱を発電用に利用した後、温泉の鮮度を保つため外気に触れないよう配管で全客室へ供給します。これらの配管が建物の美観を損なわないよう全てピット内に配置するよう設計しています。また開業後のメンテナンスを考慮し、点検・交換がしやすいよう配慮しました。
また、客室風呂の排水について、通常の下水用に加え雨水用を設置することも、本施設の特徴です。入浴時に利用した湯を排水する下水用配管に加え、かけ流しの温泉であるため常に供給されオーバーフローする温泉はランニングコスト面を配慮し、自然環境に影響のない雨水用排水に流す工夫もしています。
このような仕様では設計段階から創意工夫が必要となりますが、当社では全社的な体制で最適な提案を行っています。お客様が何気なく利用されるこれらの設備にもさまざまな知・ノウハウが生かされています。
日本三大美肌の湯の嬉野温泉「源泉100%かけ流し」の湯
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離れ客室内浴室 -

露天風呂
お茶をテーマとしたデザインコンセプトの実現
建物はお茶をテーマとした和のかつ複雑なデザインであり、施工上の難しさも多くありました。企画デザインのコンセプトを守りつつ、完成後の維持メンテナンスのしやすさも考慮し、当社から新たな設計と施工方法を提案させていただき、発注者、企画・デザイン会社との協議を重ねることで最適な建物を実現しました。
また、離れは木造平屋の建物のため、準耐火建築の基準を満たすことと、遮音性能を高める必要がありました。ここには当社の木造家屋建築で培われてきた技術や経験が活かされています。
お茶をテーマにしたデザイン
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茶屋バー -

湯煙茶屋
木造平屋の建物
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離れ -

離れと本館をつなぐ水庭
地域の歴史を紡ぐ
一人ひとりの夢の実現に向けて
当社は、経営の軸として、「脱炭素」を提供価値の一つに掲げ取り組んでいます。脱炭素社会の実現に向け、これまで培った多様な実績・ノウハウを生かしお客様に最適な提案をしております。
当社の経営理念は「安心で快適な生活環境づくりを通じて一人ひとりの夢を実現」することです。お客様や地域のみなさま一人ひとりの夢の実現に向け、問題と真摯に向き合い、チームワークを大切にしながら、その達成を一緒に分かち合うことが当社従業員の夢の実現、やりがいにつながります。
これからも安心で快適な生活環境づくりを通じて、地域の活性化や気候変動問題など社会課題解決に取り組んでまいります。
この度、ご下命いただいた「嬉野 八十八(うれしのやどや)」では、発注者である九州旅客鉄道株式会社はじめ、温泉熱事業の事業主体である京葉ガスエナジーソリューション株式会社、嬉野市ならびに 地域のみなさまと思いを一つにし、宿泊されるお客様のご期待に沿えるよう心を込めて建てました。
我々のこの取り組みが、施設を利用される方の素晴らしい思い出を作り、嬉野地域の活性化と脱炭素社会に結び付くことを心より願っております。
九州支店建築部 所長 坂口 貴