長野県にある上田電鉄別所線千曲川橋梁は、令和元年東日本台風(2019年10月)により橋の一部が崩落するという甚大な被害を受けました。災害を受け廃線となる地方鉄道もある中、存続を願う地域の熱い想いが実を結び復旧事業が決定しましたが、復活までの道のりは容易ではありませんでした。
千曲川橋梁は大正13(1924)年8月に完成した橋です。早期の復旧が求められる中、復旧の手掛かりとなる資料はおよそ100年前の設計図のみでした。加えて、崩落した当時の赤い橋梁を再利用するという難しい条件のもと、東急建設は、長年培った鉄道工事の知見と最新のデジタル技術を駆使し、様々な方の協力を得て、532日の月日をかけて鉄橋を蘇らせました。
工事概要
- 工事名称
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上田電鉄千曲川橋梁災害復旧
- 発注
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上田電鉄株式会社
- 所在
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長野県上田市
- 工事概要
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令和元年東日本台風により落橋したトラス橋の復旧、流失した橋台の新設
- 設計監理
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株式会社東急設計コンサルタント
- 施工
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東急建設株式会社
- 工期
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2019年11月28日~2021年3月28日(撤去工事・復旧工事を含む)
スピード・正確さを求められた
難易度が高い千曲川橋梁の災害復旧工事
河川工事では川の水量を考えなければなりません。川の水量は季節によって異なり、水が増える出水期(6月1日~10月31日まで)と渇水期(11月1日~翌年の5月31日)に分けられ、国土交通省では梅雨や台風などの洪水が起きやすい出水期には原則、河川内での工事を禁止しています。2019年10月に一度被災して傾いた橋脚は、再度川の増水で流失する可能性があるため、次の出水期までに橋の補強を終わらせる必要があり、正確さだけではなくスピードも求められる工事でした。
3D技術の導入
一般的な工事は事前に十分な検討・計画・設計を行うのに対し、今回の災害復旧工事で手元にある資料は約100年前の設計図のみ。確証のある図面がない中、現地を計測・調査しながらその都度、設計図をつくり工事が進められました。そこで活躍したのが3Dレーザースキャナー、3D CAD SketchUp、360°カメラという3D技術でした。
これら最新技術を活用したことで、視覚的・直感的にわかりやすい情報を共有することできました。また、これまでの2Dでは見えなかった施工時の不具合などを見える化することで、様々な関係者が同じイメージを共有することができ、現場の問題を事前に明確化し、手戻りやトラブルを未然に防ぎました。スピードと正確さを求められる災害復旧工事において、3D技術は作業の効率化に大きく貢献しました。
3Dレーザースキャナー
3Dレーザースキャナーは、1秒間に200万点をスキャンできる計測器です。捉えた点に座標情報を付与したデータを取り込むことで構造物を3次元化できる技術です。約100年前の図面との照合だけでは被災した橋脚の傾きなどを把握することは困難でしたが、この技術を活用したことで正確に捉えることが可能となりました。計測の結果、落下した橋桁以外に、橋脚がわずかに傾いていることが分かりました。
また、3Dレーザースキャナーを用いることで、スキャン後のデータは点の集まり(点群)として部材ごとに分割することも可能になります。再利用が条件であったため、落橋した橋桁の形状や、設計図とのズレ等を正確に把握し、撤去手順を検討するためのツールとしても活用されました。
3D CAD SketchUp
3D CAD SketchUpは 細かな施工検証を行うことができるツールです。修復した部材などを実際に組み立て、施工する前に、他の部材との干渉がないかなどを360°のバーチャル空間で、1mm単位で検証が可能です。これにより、関連作業の全体把握、実際には立ち入れない部分の事前確認なども可能となります。今回の工事では、出水期で河川内に立ち入れない期間でも、この技術によって事前に何度も検証をすることで、実際の施工をスムーズに実施することができました。
360°カメラ
360°カメラで現場を撮影し、日々変わる現場の進捗を本社スタッフとも臨場感をもって共有しました。これにより、見逃していた部分も再確認することができ、視野が広がり多くの気づきを得られ、品質管理・安全管理に威力を発揮しました。
地域の熱い期待と応援を受け実現した
上田電鉄別所線千曲川橋梁の復旧
上田電鉄別所線は一時、廃線の話もあった路線ですが地域からの応援もあり、長い間、通勤や通学、観光を支えてきました。2019年10月の台風により線路である千曲川橋梁が一部崩落する被害を受けましたが、地域の熱い期待と応援、支援を受け、赤い橋が元の姿を取り戻しました。
そして迎えた2021年3月28日、千曲川橋梁や上田駅には朝早くから鉄道ファンや地域の方の姿がありました。「大洪水の時から見れば今日は夢のようだ」、「開通してありがたい」、「工事される方も沿線の方も苦労していた」、「復興して本当に良かった」など多くの声が掛けられ、上田電鉄の1日の乗車数としては最多の7,881人を記録し、待ち望まれた復活を遂げました。
東急建設が災害に対し果たす役割
東急建設グループは、3つの提供価値として、「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」を経営の軸に掲げ、サステナブルな社会の実現に向け取り組んでいます。災害において生活者の日常を守ることが建設業の果たすべき大きな役割だと考え、地域の皆さまが安心で快適な生活を送れるよう「防災・減災」を推進しています。
今後も建設技術・デジタル技術力を研鑽し地域の想いに応えるとともに、社会インフラが抱える課題解決に日々取り組む建設技術者としての存在価値を高めることで建設業の発展に貢献してまいります。