東京都市大学 世田谷キャンパス7号館

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東京都市大学 世田谷キャンパス7号館

透明感のあるファサードと開放的な空間におけるネット・ゼロ・エネルギー化に向けた挑戦

多摩川の河畔に立地し、東京23区内の私立理工系キャンパスの中では
最大規模の敷地面積を誇る「東京都市大学世田谷キャンパス」。
学生たちの新たな活動拠点として、
明るく開放的で快適な空間と最先端の環境性能を備えた「7号館」が完成しました

2029年に創立100周年を迎える東京都市大学。世田谷キャンパスの約3分の1をリニューアルする再整備事業の一環として、地上4階建て延床面積1万㎡超の透明感のあるファサードをもつ建物が2022年3月に誕生しました。東京都市大学の新たなシンボルとして、学生のアクティビティの中心となる施設です。

良質な学修環境を整えるとともに、「地域社会や環境に貢献する建物にしたい」というお客様のご要望をふまえ、ZEB※1(Net Zero Energy Buildingの略称)の導入に踏み切りました。
結果的に、建築物の省エネルギー性能に関する認証制度である「BELS※2」で最高評価であるBELS★★★★★を獲得、また大規模大学では数少ない「ZEB Ready」(一次エネルギー50%以上削減。本建物では58%削減を実現)認証を取得し、経済産業省の令和2年度ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)実証事業の補助金に採択されました。

  • 透明感のあるシンボリックなファサードさ
    透明感のあるシンボリックなファサード
  • 学生アクティビティの中心となる延床面積1万㎡超の大規模な建物
    学生アクティビティの中心となる延床面積1万㎡超の大規模な建物

工事概要

建物名称

東京都市大学世田谷キャンパス7号館

発注

学校法人五島育英会

所在

東京都世田谷区玉堤1-28-1

構造

鉄骨造

延床面積

10,105.03㎡

階数

地上4階

設計監理

株式会社東急設計コンサルタント(統括)
シーラカンスK&H 株式会社、東京都市大学堀場研究室(意匠)
東急建設株式会社一級建築士事務所(構造・設備・ZEBプランナー)
ぼんぼり光環境計画株式会社(照明計画)
株式会社東急設計コンサルタント、株式会社クロス・ポイント(外構)

施工

東急建設株式会社

工期

2020年6月~2022年3月

様々な制限の中、デザイン性とZEBの両立への挑戦

「7号館」は、学生が主体的に学び、語り合い、作業し、交流し、発見するための空間づくりを目指した設計になっています。そのため1、2階には吹き抜けの大規模多目的ホール、また、教室という形にとらわれずグループ活動や学習を促進する壁や仕切りの少ない室内空間、そして建物外側もガラスを多用した開放的な空間となっています。
一般的なZEB建築では、窓を小さくすることで熱を遮断し、屋根や外壁に断熱を施すことで省エネを実現させます。しかし、今回のデザインは、ZEB化をするには難しい開放性の高い計画であったため、自然エネルギーを積極的にパッシブ利用しながら、設備の効率性に重点を置きZEB化に挑戦いたしました。

東京都市大学 世田谷キャンパス7号館
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自然エネルギーのパッシブ利用による省エネと創エネの実現

建物の高断熱化をはじめ、開放的な空間による自然採光、階段吹抜け部の煙突効果を利用した自然通風を活用しながら、室内のCO2濃度に応じた外気導入量制御や、超高効率の変圧器・空調機を導入することで建物の一次エネルギー消費量を削減しました。また、屋上には太陽光発電パネルを設置することで、創エネルギーも実現しました。

  • スカイステア(階段状教室):自然採光、自然通風を積極的に活用することで、質の高い教育環境と併せて省エネルギー性能も向上
    スカイステア(階段状教室)
    自然採光、自然通風を積極的に活用することで、質の高い教育環境と併せて省エネルギー性能も向上
  • 自然換気システム:階段吹抜け部の煙突効果を利用し、システムでコントールしながら自然換気を活用
    自然換気システム
    階段吹抜け部の煙突効果を利用し、外気条件が良好な中間期(春・秋)に自然換気を積極的に行うことで、冷房に必要な空調エネルギーを削減
  • 日射遮蔽(外付けブラインド):太陽光方位センサーにより太陽位置を感知し自動でブラインドの開閉を行うことで、高い遮熱効果を発揮
    日射遮蔽(外付けブラインド)
    太陽光方位センサーにより太陽位置を感知し自動でブラインドの開閉を行うことで、高い遮熱効果を発揮
  • 高効率空調機およびCO2センサーで外気導入量制御:室内のCO2センサーで二酸化炭素濃度を測定し、必要な外気導入量を自動で制御
    高効率空調機およびCO2センサーで外気導入量制御
    室内のCO2センサーで二酸化炭素濃度を測定し、必要な外気導入量を自動で制御
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限られた予算の中でのきめ細やかな対応

今回の現場では、限られた予算のなかZEBの基準数値を達成するため、効率の良い設備を組み合わせる工夫をしています。着工後のデザイン変更要請などもあった中、都度規定されている省エネ計算の数値を細かくシミュレーションを行うことで、大学施設としては数少ない、経済産業省の令和2年度ZEB実証事業に採択され、補助金を取得しました。

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レジリエンス※3を強化し、地域へ貢献

また、浸水被害の経験から、より安全・安心なキャンパスを目指し、災害時には、地域の防災拠点としても開放できるように、太陽光発電による創エネに加え、止水壁を設置し、主要な電気設備を上層階に設置しました。

ZEBの東急建設を目指して

環境配慮経営を推進する当社では、3つの提供価値の一つ「脱炭素」の取り組みとして、ZEBや木造建築物の割合を増やすことを目標に掲げています。エネルギー・ゼロ達成に加え、ウエルネス※4の視点やレジリエンスの強化と組み合わせ、付加価値のある建物としてお客様にとって最適なZEBの設計と運用を積極的に提案し、カーボン・ゼロの街づくりに取り組んでいきます。

作業所長コメント

学校ゼロ・エネルギー化への想い

私は学校関連の建築に25年間携わっています。特に、国際標準の大学への進化を目指す東京都市大学とは22年の関係であり、社会のニーズが変化していく中、良質な学修環境をつくりあげるため、教授一人ひとりの要望に向き合い最適な提案を出せるように心がけています。
「7号館」では、長期視点でのメンテナンスを考えながら、使い勝手やコスト、デザインなどに関する様々な要望を汲み取り、その上でZEBの実現に向け、発注者、設計者と共に丁寧に検討を重ねていきました。困難も多くありましたが、将来の担い手である学生たちが日々使う学校建築でZEBを導入した意義は大きいと思っています。今後もZEBの効果などを社内外へ発信し、脱炭素社会に貢献していきたいと思います。

都市開発支店 第二建築部 所長木住野 龍也
  1. ZEB(Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称)とは
    快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと
  2. BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)とは
    国土交通省が主導する建築物の省エネルギー性能に特化した、第三者による認証制度。
  3. レジリエンス
    災害対応力のように、リスクやストレスに対して対処する能力
  4. ウェルネス
    身体的、精神的、社会的に健康で安心な状態