東京の代表的な都市、渋谷の中心に位置する東京メトロ銀座線渋谷駅。半蔵門線や副都心線と並び、都内の重要な路線として、1日およそ22万人に利用されています。しかし、1938年の開業以来、大規模な改良が実現出来ず、混雑や安全面、サービス面の課題を抱えていたことから、渋谷再開発に伴い建て替えが検討され、ついに2020年1月3日に銀座線渋谷駅が新たに生まれ変わりました。新しい銀座線渋谷駅は、バリアフリー化され、混雑の緩和や他の鉄道路線への乗り換えもわかりやすくなりました。
当社は、ホーム位置を東へ130m移設すると共に、橋脚数の減少(駅東側において7基から3基)及び相対式ホームから1面2線の島式ホームを築造する工事を担当いたしました。この工事では、3次元モデルのBIM / CIM※1 を積極的に活用し、その取り組みが評価され、令和元年度の国土交通省『i-Construction大賞』優秀賞を受賞しました。
工事概要
- 工事名称
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東京メトロ銀座線渋谷駅線路切替工事
- 工事場所
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東京都渋谷区
- 発注者
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東京地下鉄株式会社
- 請負者
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東館工区:東急・鹿島・清水・鉄建 JV
東口・明治通り工区、上屋設置工事工区:東急・清水・鹿島 JV
金王・坑口工区:東急・大成 JV
- 工事概要
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東急百貨店東横店の建物内にあった東京メトロ銀座線渋谷駅を130m移設し駅舎を明治通り上に構築
相対式ホームから1面2線の島式ホームへ築造し、バリアフリー設備整備
明治通り上橋脚基数を7基から3基に削減
本工事では、ホーム移設に伴い、3回の線路切替工事がありました。線路切替工事においては、銀座線を運休させて工事を行う必要があり、確実な施工が求められました。特に、線路切替工事においては、主に3つの課題がありました。
線路切替工事の3つの課題
1. 限られた時間
都内の中心地での工事のため、バスレーンの開放時間や明治通りの規制解除時間との連動をはじめ、渋谷駅再開発のプロジェクトの一環として緻密な計画の元に施工を進める必要があり、早期に懸案項目の抽出と解決を進める必要がありました。
2. 3層からの施工
地上面・軌道面・その上部の作業構台面の3層から複数のクレーン作業となります。この3層の施工状況を示すには、2次元図面だけでは表現することは困難でした。
さらに各々のクレーンのブームが接触しないように、ブーム旋回などの綿密な計画が求められていました。
3. 確実な情報共有
工事は、長時間かつ複数個所での並行作業となり、当該工事の作業所の社員だけでなく、他現場の応援社員が多数参加しておりました。そこで、参加者全員に複雑な工程・施工手順を迅速かつ確実に把握してもらう必要がありました。また、列車運休を伴う線路切替工事は限られた時間で工事を完了させるため、多くの施工関係者全員が一致したイメージ共有や施工手順の確実な理解が求められました。
確実に施工するために3次元モデルのBIM/CIM※1を導入
従来のプロセスでは、施工段階で設計の不具合や施工性の見直しが発覚し、修正・変更が生じると、コストアップや工程遅延が懸念されていました。
この工事では、発注者の方々にもプロセスの見直しに協力いただき、概略設計が決定した時点で、施工者側の観点を入れた3Dモデルの作成を行い、並行協議しながら設計とのコンカレントエンジニアリング※2 を実践しました。運輸関係者に対しても、信号位置などの運行安全面において、事前に3Dモデルにて確認を行いました。
さらに、3次元モデルに分単位の時間軸および動きを加えた4DモデルやVR(Virtual Reality:仮想現実)を用いたレビューにより、工程の初期段階で工法の妥当性や施工手順チェックを集中的に行うフロントローディング※3 を実施し、意思決定の迅速化、手戻りの防止、多数の施工関係者の統一した情報共有などが生産性向上につながりました。
当社ではこれらの取り組みを専門外注会社に頼らず、汎用的なソフトを使用し従業員をはじめとする作業所が主体となって推進いたしました。このような作業所が主体となって取り組めるよう、スキルの習得のためにマニュアルを作成し、現場技術者等約200人以上に初期教育を実施しています。
取り組みの概要
- BIM /CIM(Building / Construction Information Modeling, Management)とは、調査、設計段階から3次元モデルを導入し、施工、維持管理の各段階においても、属性情報(材料、強度等)を付与しながら一連の建設生産・管理システムにおいて活用することで、品質確保とともに生産性向上を目的としたワークフロー。
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コンカレントエンジニアリングとは、製造業等の開発プロセスを構成する複数の工程を同時並行で進め、各部門間での情報共有や共同作業を行うことで、開発期間の短縮やコストの削減を図る手法を指す。CIMにおいては次のような効果が想定される。
- 設計段階で施工担当者の知見も反映することで施工性や供用後の品質を確保、変更には景観や施設使用の快適性を向上させる。
- 設計段階に維持管理担当者の知見も反映し、維持管理上の配慮(材質や弱点となる箇所を設けないなど)を行う。また、設計・施工段階では維持管理段階で必要となる情報を活用可能な形で提供することで、維持管理の効率化・高度化につながる。
- 事業に携わる関係者と共同作業することで、意思決定の迅速化や手待ち時間の縮小により、工期や事業全体の期間の短縮につながる。(国土交通省CIMガイドライン共通編より)
- フロントローディングとは、システム開発や製品製造の分野で、初期の工程において後工程で生じそうな仕様の変更等を事前に集中的に検討し品質の向上や工期の短縮化を図ること。CIMにおいては、設計段階でのRC構造物の鉄筋干渉のチェックや仮設工法の妥当性検討、施工手順のチェック等の施工サイドからの検討による手戻りの防止、設計段階や施工段階における維持管理サイドから見た視点での検討による仕様の変更等に効果が見込まれる。((一財)日本建設情報総合センターHPより)