林業のイメージを変えたい―東急建設『TCFORECTION』のスマート林業が動き出す

伐倒作業の災害リスクの低減と少人数で回る施業を両立し、木造・木質化へつながる循環を現場で確かめる。建設会社が山に踏み込む理由。
林業のイメージを変えたい―東急建設『TCFORECTION』のスマート林業が動き出す
目次

IMG_0497.01_17_13_00.静止画004.jpgのサムネイル画像

建設会社が「スマート林業」に取り組む――それは、東急建設が東京都あきる野市で進める実証の取り組みから動き出した。
東急建設が山に入ったのは、木を使うためだけではない。
安全、担い手、荒廃する森林――課題が積み重なる現場で、「続く仕組み」をつくること。スマート林業は、そのための手段として位置づけられている。 目指すのは、作業の効率化だけではない。この取り組みの出発点を「林業のイメージを変えたい」という言葉で表現した。 本記事では、東急建設の価値創造推進室 イノベーション推進部の藤田さんと安井さんへのインタビューをもとに、建設会社がなぜ林業に踏み込んだのか、その背景と狙いをひも解く。

IMG_0497.01_04_15_04.静止画002.jpg

価値創造推進室 イノベーション推進部 部長 藤田耕一さん(写真中央)、
価値創造推進室 イノベーション推進部 新規事業創出グループ 安井元さん(写真右)

 

なぜ今、建設会社が林業に踏み込むのか

建設会社が林業に踏み込む。言葉にすれば一文だが、実際には「なぜ今それをやるのか」という理由が問われる。東急建設のスマート林業は、会社の方針から"降りてきた企画"というより、一人の問題意識が形になって動き出した取り組みだ。

起点にいたのが安井さんだった。社内で新規事業の提案を募る「MOON SHOT CONTEST(ムーンショットコンテスト)」に、当時「フォレストアクション」と呼ばれていた構想として臨み、最終審査まで残った。

林業の現場には、安全や担い手不足など、簡単には解けない課題が積み重なっている。そこに対して「続く仕組み」をつくる――その思いを、事業の形に落とし込もうとしたのが出発点だった。

一方で、個人の熱だけでは前に進まない。ここで重要になるのが、会社側がその挑戦に「意義」を見出したことだ。長期経営計画で掲げる提供価値は「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」の3つである。藤田さんは、この中でも特に「脱炭素」と「防災・減災」の文脈に林業は接続すると整理している。
山を整えることは、CO2の話にとどまらない。荒廃が進む山林の再生は、災害リスクや地域の持続性にも関わる。経営側が"会社として取り組む理由"を持てたことが、次の一手につながった。

もちろん、意義だけで事業は続かない。だから東急建設は、まず東京都あきる野市で実証に踏み出した。実証で確かめたいのは、理屈の正しさではなく、現場で成立するかどうかだ。手続きや施業を実際に回しながら、事業として継続できる条件をつくり、次の段階へ進む準備を整えていく。

 

(藤田さん)
「2025年夏に東京都あきる野市で実証を開始し、現在はその結果を踏まえて事業化に向けた検討を進めています。」

 

東急建設では、こうした一連の取り組みを新規事業「TCFORECTION (ティーシーフォレクション)」として位置づけている。スマート林業は、その中核にある実装テーマだ。 安井さんの熱量を起点に、藤田さんが事業として成立させる道筋をつくる。個人の思いと会社の意義づけが重なったところで、この挑戦はいま"動く取り組み"になっている。

次章では、安井さんがこの取り組みで何を"スマート"と定義しているのかを見ていく。狙いは効率化だけではない。事故の多い工程をどう変え、担い手が入りやすい形にどう寄せるか――安全と持続性を成立させるための実装が、ここから具体化していく。

 

スマート林業で変える――安全と施業効率を"両立させる"

スマート林業の狙いは、作業をただ速くすることでも、安全だけを語ることでもない。東急建設が東京都あきる野市で進めている実証は、危険を減らし、少人数でも回る形をつくり、川上から川下までつながる木の使い方へ結びつけていくための取り組みだ。 林業の現場では、事故が起きやすい工程がある。安井さんが最初に向き合っているのは、伐倒の危険をどう減らすかという課題だ。リスクが集中しやすい工程を機械化・無人化へ近づけることで、危険のかたちを変えられる。ここが、スマート化の出発点になる。

 

(安井さん)
「林業で一番多い事故は立木を伐り倒す、伐倒作業です。機械化や無人化が進めば、そのリスクは削減につながります。」

IMG_0497.01_11_53_27.静止画002.jpg

ただ、危険を減らすだけでは、林業は続かない。担い手不足が前提になるなかで、少人数でも回る施業の形を成立させ、現場の負担を減らしていく必要がある。安井さんが語る 「林業のイメージを変えたい」 という言葉は、安全性の向上と、働き方の見え方を変えることが一体だという意思表示でもある。 そのうえで藤田さんは、この取り組みを"意義"の側から支える。荒廃する森林や担い手不足といった、行政課題としても根深い領域にあえて踏み込むこと自体に価値があるという立ち位置だ。

(藤田さん)
「担い手不足や森林の荒廃など、課題の根深い領域にあえて踏み込むことに意義があると思います。だからこそ、事業として継続できる形にしていきたい。」

 

実証で重機やデジタルを導入しているのも、"便利だから"ではない。安全と施業効率の両立を現場で確かめ、成立条件を整えるためだ。新しい機械ならではの課題はありつつも、うまく稼働したときのスピード感は見えてきているという。

(安井さん)
「新しい重機を現場に導入する初年度は、設定や段取りの調整に加え、導入スケジュールの面でも時間を要しました。ただ、運用が噛み合ってきた場面では、想定していた水準に近づける手応えも得られています。」

そしてこの取り組みは、森の整備で終わらず「木をどう使い、どう循環させるか」までを射程に置いている。まとまった量を安定して扱えるようになれば、建築分野での木の利用(木質化)にもつながり得る。安井さんは、これまで活用されにくかった部分も含めて"宝の山"と捉え、川下側の視点で可能性を広げていきたいと話す。
この取り組みは、安全性や施業効率の改善に留まらない。森林の整備を起点に、木の利用まで見据えた持続的な循環を描くことで、林業を「続けられる産業」として再構築する試みでもある。

次章では、その前提条件となる「山をまとめる」取り組みを見ていく。

 

山をまとめる――施業を回す前提を"先につくる"

スマート林業というと、遠隔操作の重機やデジタル化といった"技術"が先に注目されやすい。だが、現場でそれを成立させるには、もう一つ欠かせない前提がある。山を、施業できる形にまとめることだ。

林業では、山林所有者が細かく分かれているほど、施業の段取りが組みづらくなる。道を入れる範囲や搬出のルートが点在し、結果として「伐るだけで終わる」施業になりやすい。スマート林業を"続く仕組み"にするには、まず施業地を一定のまとまりとして整え、計画どおりに回せる土台をつくる必要がある。 今回の実証でも、まず取り組んだのは、所有者や境界を整理し、関係者と前提をそろえるための土台づくりだった。前提がそろって初めて、機械化やデジタル化が現場の改善として機能する。
この集約施業のプロセスは、林業特有の仕事というより、むしろ建設業が日常的に向き合ってきた領域に近い。土地の権利関係を整理し、関係者と条件をすり合わせ、合意を積み上げながら計画を成立させていく。駅前再開発や大規模工事で培ってきたこの進め方が、山の現場でもそのまま活きた。
ただ、前提を整える作業は、書類や手続きだけで進むものではない。最初からすべてが歓迎されたわけではなく、誤解をほどき、目的を共有しながら前に進める必要があった。

IMG_0497.00_41_14_03.静止画001.jpg

(安井さん)
「当初は慎重に見られる場面もありました。ただ、森林整備として何をしたいのかを丁寧に伝えていくと、理解が進み、受け止め方が変わっていった実感があります。」

 

スマートな道具を使いながらも、最後は現地で確かめ、丁寧に説明し関係者との合意を積み重ねる。そこが一番"泥臭い"ところでもある。 技術が効くのは、その前提が整ったあとだ。

 

東急らしさ――安全・計画・合意形成で"成立させる"

スマート林業というと、遠隔操作の重機やデジタル化といった"新しさ"が先に注目されやすい。だが、この取り組みの芯にあるのは道具そのものではない。スマートな道具を活かすための前提を、現地で確かめながら整え、合意を積み重ねていく――その"泥臭い部分"をやり切る力にこそ、東急建設らしさが出ている。
まず大きいのは、安全に対する向き合い方だ。林業で事故が集中しやすい伐倒の工程を「人が入る前提」で続けないために、遠隔操作を含む重機の導入で危険な場面を置き換えていく。さらに、建築現場で培った作業手順やKY(危険予知)の考え方を運用として回し、現場任せにしない。スマートという言葉の内側にあるのは、危険を"根性で乗り切る"のではなく、"減らせる形に組み替える"という発想だ。
次に、計画を「回せる形」に落とし込む力がある。現地の感覚に頼りがちな領域でも、段取りを組み、確かめ、改善する。山の中で起きることを場当たりにせず、運用として整えていく。この計画力は、建設会社が積み上げてきた仕事の型でもある。
そして何より、この取り組みを動かしたのは、関係者と前提をそろえる力だ。本質は、誤解があるなら解き、目的を共有しながら前に進むことにある。技術を"入れる"以前に、同じ前提をつくる――その合意形成が、山の現場でも成立条件になった。

 

IMG_0497.01_13_08_11.静止画003.jpg

最後に――川上から川下へ。木の循環を"続く形"につなぐ

TCFORECTIONのスマート林業は、遠隔操作の重機やデジタル化を導入する取り組みであると同時に、林業の現場が抱える課題に「続けられる形」で向き合う試みでもある。事故リスクを減らし、少人数でも回る施業に近づけ、関係者と前提をそろえて動かす。実証を通して、その成立条件を現場で確かめながら整えてきた。
藤田さんがこの取り組みを支えるのは、会社として踏み込む意義があるからだ。担い手不足や森林の荒廃といった課題は根深く、簡単には解決しない。だからこそ、続けられる形に落とし込む価値がある――この前提が、事業としての意思決定を支えている。

 

(藤田さん)
「担い手不足や森林の荒廃など、課題が根深い領域にあえて踏み込むことに意義がある。だからこそ、続けられる形として成立させていきたい。」

 

一方で、安井さんが掲げた「林業のイメージを変えたい」という言葉は、現場の実装を引っ張る合言葉になっている。危険を減らし、働き方の見え方を変え、担い手が入りやすい環境をつくる。その先に、施業が続く状態がある。スマート林業の狙いは、効率化のための効率化ではなく、安全と施業効率を両立させ、現場が回り続ける前提をつくることにある。

(安井さん)
「林業のイメージを変えたい。危険を減らし、働き方の見え方を変えることが、担い手につながり、施業を続ける前提になる。」

 

そして、この取り組みが見据える射程は、森林の整備だけで完結しない。木を「つくる側」(川上)と「使う側」(川下)は、本来分断されやすい。けれど東急建設は、建設会社として木を使う立場にあるからこそ、森林の現場に踏み込み、木の循環を"つながる形"にしようとしている。安全性を高め、担い手が入りやすい環境を整え、施業が続く前提をつくる。その積み重ねが、川下での木造・木質化を、より持続可能な形へ近づけていく。 TCFORECTIONが示しているのは、林業を単体の取り組みにしないこと、そして建設業として循環の一部を担うという姿勢だ。川上から川下までを「続く形」でつなぐ――安井さんの「林業のイメージを変えたい」という言葉が、その推進力になっている。