TCFD提言に沿った情報開示
当社は、2020年11月に気候関連財務情報開示タスクフォース(以下TCFD)の提言に賛同し、2030年を到達年とする長期経営計画においてもマテリアリティ(経営の重要課題)の一つとして「気候変動への対応と適応」を特定しています。気候変動が事業活動に及ぼす影響の重要性を企業として認識し、脱炭素社会に向けた取り組みを推進するとともに、TCFD提言に沿った情報開示の充実を図っていきます。
気候変動関連のリスクと機会
マテリアリティに基づく全社的なリスクと機会について、事業部門ごとに年度実行計画に落とし込み、取り組んでいます。この取り組み状況については、四半期ごとにモニタリングし、経営会議に報告することでリスク管理を行っています。
また、当社のサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)のうち、気候変動に関するリスクと機会を特に重要な課題と認識し、社長を委員長とするサステナビリティ委員会(旧CSR委員会)で、全社的なサステナビリティ活動のモニタリングと推進を実行しています。
戦略
長期経営計画の策定時(2021年5月公表)に、複数の将来シナリオ分析により、短期・中期・長期にわたって気候変動がもたらす影響を幅広く検討し、特に重要であると考えられるリスクと機会を特定しています。
またそれぞれのリスクと機会が東急建設グループに与える財務影響を、気候変動への対応や規制が進むことが想定される2℃未満シナリオと、災害の甚大化がより深刻となる4℃シナリオに分けてシナリオ分析を実施しました。
気候変動が東急建設グループの事業に及ぼす影響を鑑み、気候変動リスクの低減およびこれらの機会を生かすことを経営の最重要課題と認識しています。
東急建設グループは、経営の軸として3つの提供価値「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」を定め、気候変動リスクの低減に向けた施策推進に取り組んでいます。
検討に必要な情報の取得にあたってはIEA(International
Energy Agency)WEO 2022 Net Zero by 2050 やIEA
WEO2021等を参照しました。
各シナリオ下における事業環境の認識と、それらが及ぼす事業影響の概要は以下の通りです。
4℃シナリオ
4℃シナリオ下では社会全体で気候変動への対応が積極的にとられずに、大規模災害の頻発化や夏季の労働条件の悪化など、物理リスクの甚大化がより深刻となる以下のような事業環境を認識しています。
【社会の全体像】
先進国を中心に気候変動リスクに対する規制や政策が一定進められるものの、実効性が弱く結果として十分な対策がとられず、環境への規制は事業に対して大きな効果を及ぼすには至らない。その一方で気温の上昇に歯止めがきかず、災害が頻発し被害の甚大化が想定される。
【東急建設グループを取り巻く事業環境】
現場工事に対する直接的な災害被害だけでなく、気温の上昇に伴う夏季における熱中症の増加や、労働効率の低下による対応コストの圧迫等が想定される。
一方で災害の増加による防災・減災に対する需要の高まりが想定され、インフラの整備や防災対策といった東急建設グループにおける社会的責任は一層拡大する。
2℃未満シナリオ
2℃未満シナリオ下では気温の上昇を低減するために気候変動への対応や規制が進み、社会全体が低炭素社会へ向かうことで主に移行リスクが顕在化する以下のような事業環境を認識しています。
【社会の全体像】
社会全体で気候変動への対策が積極的に進められ、炭素税の導入や、温室効果ガスの排出量規制といった政策が進む。各企業はその対応コストやサプライヤーからの価格転嫁に対するコスト負担を強いられる。更に環境対応に消極的な企業は投資の引き上げやブランドイメージの低下といった影響を受けることが想定される。
また再生可能エネルギーへの転換や脱炭素技術の革新が進められることで顧客意識の変化が生じ、低炭素社会へ貢献できる商品やサービスに対する需要が増加する。
【東急建設グループを取り巻く事業環境】
ZEBをはじめとする低炭素建築物の拡大が一層進み、環境負荷の低い施工管理が求められることが想定される。新築建築物だけでなく、省エネへの関心の高まりからリニューアル需要の拡大や、保有物件に対する省エネ対策が求められる。
また再生可能エネルギーの普及が進むことで、それに伴う再生可能エネルギー関連施設の需要が増加する。
リスク管理
マテリアリティに基づく全社的なリスクと機会について、事業部門ごとに年度実行計画に落とし込み、取り組んでいます。この取り組み状況については、四半期ごとにモニタリングし、経営会議に報告することでリスク管理を行っています。
また、当社のサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)のうち、気候変動に関するリスクと機会を特に重要な課題と認識し、社長を委員長とするサステナビリティ委員会で、全社的なサステナビリティ活動のモニタリングと推進を実行しています。
当社の中長期的な持続可能性におけるリスクと機会およびその対応策
リスクと機会 | タイプ | 影響要因 | 東急建設グループ への主な影響 |
想定時期 | 事業影響 | 施策 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2℃未満 | 4℃ | |||||||
リ ス ク |
移 行 リ ス ク |
規制リスク | 炭素税の導入 | ・自社の排出量による 炭素税の負担 |
中期 | 中 | - |
・工事現場での重機や発電機の低炭素燃料(GTL・RD)使用比率拡大 ・使用建設資材の低炭素化、利用率の拡大 ・RE100に向けた再生可能エネルギー由来の電力への転換 |
排出量報告義務の強化 | ・東京都総量削減義務の対象事業者となった場合、対応コストや未達時のコスト負担による利益の圧迫 | 短~中期 | 中 | - | ||||
技術リスク | 低炭素建築物の 需要拡大 |
・ZEB等の低炭素建築物への規制や要求に対応できないことによる受注機会の逸失 | 短~中期 | 大 | 中 |
・ZEB・ZEH-Mと木質建築関連部署への投入資源の拡大 ・自社木造・木質建築ブランドを支える技術開発 ・ZEB・ZEH-M設計提案ツールの開発による営業力の強化 |
||
環境負荷の低い 施工管理への移行 |
・顧客の要求に応えた環境負荷の低い施工ができないことによる受注機会の逸失 | 中~長期 | 中 | - | ・脱炭素・廃棄物ゼロに貢献する革新的技術の開発(廃プラスチックの発生量の削減、混合廃棄物の発生量の削減) ・BIM/CIMの活用による施工効率の改善 |
|||
市場リスク | 保有物件のZEB化 | ・保有物件のZEB化等の対応にかかるコストを賃料に転嫁できないことによる収益の減少 | 短~中期 | 中 | - | ・ZEB等、省エネ不動産の提供推進 ・老朽建物リノベーションによる防災オフィス化推進 ・社内協業や新サービス等によるコスト競争力強化 |
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リニューアル市場 の拡大 |
・リニューアル市場で省エネ改修工事の拡大が見込まれ、需要への対応遅れによる受注機会の逸失 | 短~中期 | 中 | - | ・省エネリニューアル工事の需要や設備更新の需要の取り込み | |||
原材料価格の高騰 | ・顧客意識の変化により、木材などのCO2排出量の低い素材を採用する必要性に迫られ、コストの増加分を価格転嫁できない場合、収支を圧迫 | 中期 | 大 | - | ・使用建設資材の低炭素化、利用率の拡大 ・積み上げ式による建築資材のCO2排出量算定ツールの提供及び精度向上 |
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慢性リスク | 夏季の気温上昇 | ・猛暑日の増加による労働者の効率低下、暑熱対策等によるコストの増加 | 中~長期 | - | 中 | ・BIM/CIMの活用による施工効率の改善 ・仕上げ材のプレカットや躯体のPCa化推進等による現場作業効率の改善 |
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機 会 |
リソースの効率 | 低炭素建築物の 需要拡大 |
・ZEB等の低炭素建築物案件の受注拡大 | 短~中期 | 大 | 中 | ・ZEB・ZEHと木質建築関連部署への投入資源の拡大 ・自社木造・木質建築ブランドを支える技術開発 ・ZEB・ZEH-M設計提案ツールの開発による営業力の強化 |
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エネルギー源 | 環境負荷の低い 施工管理への移行 |
・施工時の省エネ技術または再生可能エネルギー使用の要求拡大に対応することによる受注機会の増加 | 中~長期 | 中 | - | ・脱炭素・廃棄物ゼロに貢献する革新的技術の開発 ・工事によるCO2排出量の提供及び精度向上による営業力の強化 |
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製品・サービス | 再生可能エネルギー の需要拡大 |
・太陽光発電所や風力発電所など再エネ関連施設の建設需要増価に伴う売上拡大 | 短~中期 | 中 | 小 | ・再エネ関連工事の実績蓄積 | ||
リニューアル 市場の拡大 |
・省エネ需要拡大に伴うリニューアル案件の増加 | 短~中期 | 中 | - | ・省エネリニューアル工事の需要や設備更新の需要の取り込み | |||
インフラの長寿命化 | ・インフラアセットマネジメントでの構造物の長寿命化工事の取り込みによる売上高増加 ・低炭素材料を使用した長寿命化工法の開発による受注機会の増加 |
中~長期 | 中 | 中 | ・データベースを活用したIAMの推進 ・IAMの外部連携 ・カーボンニュートラル技術の開発 |
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市場 | 新市場への参入 | ・非建設分野における新たな事業の創出 | 中期 | 中 | 中 | ・脱炭素に寄与するエネルギー源の新規創出 ・脱炭素に寄与する既存エネルギー源の改善、活用 ・蓄エネ設備を利用した電力市場取引および電力供給事業への参画 |
※想定時期の定義 短期:0~2年 中期:3~9年 長期:10~30年
※財務影響の定義 小:1億円未満 中:1億円以上、10億円未満 大:10億円以上
指標と目標
SBTとRE100で掲げた目標を前提に、これらを達成するための新たな技術開発や新たな事業展開などを推進していきます。
項目 | 基準年 | 対象 | 2022年度 目標 |
2022年度 実績 |
2023年度 目標 |
2030年 目標 |
2050年 目標 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
温室効果ガス | 2018年 | Scope1・2 | 10.0%削減 | 9.2%削減 | 12.5%削減 | 30%削減 | 100%削減 |
Scope3※1 | 10.0%削減 | 47.4%削減 | 12.5%削減 | 30%削減 | ー | ||
再生可能エネルギー | ー | 再エネ電力利用率 | 60.0% | 59.6% | 70.00% | 100% | ー |
廃棄物※2 | ー | 最終廃棄処分率 | 6.0% | 6.1% | 5.70% | 3%以下 | ゼロ |
※1:Scope3は、排出量の大半をカテゴリ11(製品の使用時)が占めており、完成建築物の件数・用途による耐用年数により、計上数値が大きく変動する。2022年度は、物流倉庫が完成建築物の中に占める割合が大きくなります。物流倉庫は耐用年数を30年としており、マンションの耐用年数60年より短いため、Scope3の数値が大きく改善した数値が計上されています。
※2:廃棄物は単体の数値です。
目標の見直しについて
長期経営計画において当社は2020年にWB2℃基準でScope1・2の目標を2030年削減率30%(2018年度比)と定めてSBT認定を取得していますが、SBT目標設定ガイダンス第2版の1.5℃基準に基づいて、2030年のScope1・2の削減目標を削減率38.2%(2018年度比)に変更し、それに沿った修正移行計画を、2023年7月に開かれたサステナビリティ委員会にて決議しています。
なお2025年を目途として、SBT目標設定ガイダンス第3版の1.5℃基準に目標を見直し、移行計画についても更新して公表予定です。