Project Story 02
ー【建築】中野囲町プロジェクトー
建築プロジェクトの概要
東急建設は、JR・東京メトロ「中野駅」周辺の市街地再開発事業に参画しており、このうち「囲町東地区第一種市街地再開発事業」(以下、中野囲町プロジェクト)を担当している。地権者を中心とした再開発組合が発注者で、計807戸の住宅棟、商業施設を含むオフィス棟を建設する。に着工、末に竣工予定である。住宅棟は地上25階・地下2階及び地上20階・地下1階の2棟からなり、商業施設を含むオフィス棟は地上12階・地下2階となる。総述べ床面積約13.5万m2となる3棟の建物すべてを東急建設が建設する大型プロジェクトである。
それぞれの持ち場で
社員一人ひとりが何を大切にし、
何を現場で発揮しているのか?
若手から作業所長まで、
4名のそれぞれの視点で語ります。
働きやすい環境を作り
工事全体をマネジメントする。
作業所長の視点
A敷地事務所棟作業所長
K.F
入社
Episode
どんなことにも貪欲に
主体性を持って取り組もう!
「どんなことにも貪欲に、主体性を持って取り組もう!」
中野囲町プロジェクトのA敷地事業所棟の作業所長を務めるK.Fは、作業所方針として「技術力」強化と「チーム力」向上を掲げながら、このようにメンバーに呼びかけている。
中野囲町プロジェクトは、現在、東急建設で稼働している建築現場において最大級の規模のものである。多数の協力会社、作業員が関わるだけに、施工管理を担う東急建設のメンバーにも細かく担当が割り振られているが、担当が細分化されればされるほど、誰が担当するべきなのか曖昧なグレーゾーンが増える。
K.Fはから囲町プロジェクトに配属され作業所長となったが、その前に担当していたのは、東京都中央区晴海の再開発事業(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会選手村として仮使用後、共同住宅にリニューアル)の工事現場だった。晴海の再開発プロジェクトも、今回プロジェクトに匹敵する大規模現場で、そこでの経験が現在のK.Fの指示に活かされている。
「現場を見回っていると、工事の進捗や品質管理で、気づくことがあります。例えば、次工程が数日後に迫っているのに、前工程が予定されていなかったりするのです。すぐ前工程と後工程の施工管理担当者に、写真付きのショートメールを飛ばし、コミュニケーションを取って問題を解決するように指示します。どちらの担当者がカバーすべきなのか、グレーンゾーンを作らず、双方が問題解決に動かなければなりません。」とK.Fは説明する。
Episode
工事はチームスポーツと同じ。
主体的に動き、成果につなげよう。
作業所長の役割は、プロジェクトが工程通り安全で円滑に進捗するように、工事全体をマネジメントすることだ。施工管理において必要とされる品質、原価、工程、安全、環境のどれ一つも欠けてはいけない。大規模現場ともなれば、一人で全てのことができるわけではないので、メンバーを信頼して任せることが重要となる。
「自分がこれまで担当してきた作業所の所長の中で、仕事がしやすいと感じたのは、部下に裁量を与えてくれる方でした。指示はしっかり出し、必要があれば注意もする。でも、メンバーが働きやすい環境を整えるのも所長の大事な役割だと思っています。打ち合わせの場では、少し笑いが生まれるようなユーモアを交えることも心がけています。」
K.Fは学生時代、野球などのチームスポーツに親しんできた。
「野球で言えば、三遊間に飛んだボールはサードもショートも迷わず取りにいく。建築工事も同じです。“自分の仕事はここまで”と線を引いてしまうのではなく、主体的に動いてほしい。チームとして成果を出すために、どう考え、どう行動するべきか。それをマネージャーの立場から、日々メンバーに伝えています。」
Episode
利害関係者の皆さんとの折衝も
所長としての役割。
中野囲町プロジェクトの特徴として、ステークホルダー(利害関係者)が多いことがある。
「関係者が多いプロジェクトでは、物事の決定に時間がかかることもしばしばです。だからこそ、施工を担う私たちも余裕を持った計画立案と、密なコミュニケーションが求められます。承認を得たり、関係者の理解を得たりするには、そのひとつひとつに丁寧に対応する必要があります。作業所長として、こうした調整にも気を配ることが大切だと感じています。」
K.Fはオフィス棟の商業施設に入居が内定している飲食店や量販店について、個人的に情報収集を図っている。テナントの入居者はまだ正式には公表されていないので、施工管理を担うメンバーにも社名・店名は伝えていないが、1人で別の街にある既存店に足を運び、雰囲気を感じ取ったり、レイウアウトやオペレーションを確かめたりしている。
「テナントのお客さまとは、内装や設備に関する打ち合わせを行う機会もあります。スムーズに進めるには、まず相手のことを知るのが第一歩。その積み重ねが良好な関係づくりにつながります。対外的な折衝も、作業所長の大切な役割のひとつです。」
「本気の作業手順書を作る」
安全を守る東急建設の合い言葉。
設備統括の視点
S.W
入社(キャリア入社)
Episode
参加するサブコンの多さで
規模の大きさがわかる。
設備工事の施工管理者として豊富な経験を持つS.Wに、これまでで一番印象に残ったプロジェクトは何だったかと聞いた。即答だった。
「今ですよ、今。これだけ大規模な工事は初めてですから。」
S.Wは中野囲町プロジェクトに設備長として参加しているベテランだ。建築における設備とは、給水・排水・空調・換気・電気などの分野を指す。「建物に息を吹き込む役割」とS.Wは語る。
設備はさまざまな機械を使うので、これら機械の調達や設置工事を担う設備会社(サブコン)が協力会社として必ずプロジェクトに参加する。S.Wが中野囲町プロジェクトの規模の大きさを実感するのは、参加しているサブコンの数の多さだという。
「通常は電気、衛生(給排水)、空調でサブコンさんが1社ずつ参加します。プロジェクトによっては、そこにプラスαが加わります。ところが、中野囲町プロジェクトでは、常駐のサブコンさんだけで8社あり、そこにプラスαが加わってきますから、それだけで規模の大きさが全然違うことがわかりますよね。」
Episode
工事一つひとつに対し、
入念に計画書を練り上げる。
、設備工事を管理するS.Wにとって、一つの重要なミッションを実行する日を迎えた。敷地内地下にオイルタンクを埋設する工事である。このオイルタンクは、万一の災害時に居住者の生活を守る非常用発電機の動力源を確保するためのものだ。
こうした工事一つひとつに対して、設備の工事管理者は、建築の工事管理者と協力しながら入念に計画を練り上げ、計画書にまとめる。オイルタンクの埋設工事に関する計画書の作成は、1カ月半ほど前から取り組んできたものだ。
「サブコンさんから提出していただく計画案をもとに、建築の工事管理者と徹底的に議論して細部を詰めていきます。建築側からは、主に安全管理の観点から、さまざまな指摘があります。事故やトラブルを未然に防ぐため、作業手順、使用する機材、人員配置など、あらゆる点を検討しなければなりません。」とS.Wは言う。
工事一つひとつに魂を込めていかなければ安全は守れない。今、東急建設では一つの合い言葉で、安全を守る決意を示しているとS.Wは教えてくれた。
「本気の作業手順書を作る。」
Episode
パワーを生むのは重機ではない。
人と人とのつながりこそが力となる。
S.Wが設備の工事管理者として最も大切にしていることは、「人と人とのつながり」だ。設備機器は効率性や環境性能、使い勝手などあらゆる観点から先進的なものにどんどん進化してきている。設置工事に使用する機材も取り回しのよいものに改良されてきた。ただ、建築は1棟1棟設計も用途も異なるもので、似ているものはあっても同じものはない。
「プロジェクトを進めていくと、私のようなベテランでも、必ずわからないことが出てくるもの。そんな時に頼りになるのは、やっぱり“人”なのです。自分には経験がなくても、社内外にネットワークを持っていれば、必ず経験者がいたり、知見を持つ人を紹介してくれたりする。そういう専門家に教えを請うことで、困難を乗り越えることができる。」とS.Wは言う。困難に直面した時にパワーを生むのは重機ではなく、人と人とのつながりなのだ。
中野囲町プロジェクトは大規模な現場だけに、関わる人も多く、物事の決定には通常の2倍、3倍の時間と手間がかかるという。それでも、コミュニケーションに手を抜いてはいけないとS.Wは強調する。
「目を見て、膝を突き合わせて、根気強く話す。そういう真剣なコミュニケーションによって、プロジェクトは人と人とのつながりを生み、そのことが次の現場で役立つのです。」
S.Wは中央沿線に住んでいる。中野囲町プロジェクトが完成すると、電車で横を通る日々を迎えることになる。
「楽しみですよ。でも、建物が大きすぎて、車窓からは全体が見えないかもしれないね。」
そう言って、S.Wはカラカラと笑った。
利用者の笑顔が見たい。
熱い想いも、建物を支えている。
事業所棟 施工管理の視点
T.S
入社
Episode
学びの宝庫となる
大規模プロジェクト。
「中野囲町プロジェクトのような大規模現場は、学びの宝庫です。」
T.Sはこう話す。入社後は九州支店に配属され、福岡県、沖縄県・宮古島、鹿児島県・奄美大島などの現場で経験を積み、2022年から首都圏エリアの工事を管轄する支店へ異動、2023年から中野囲町プロジェクトに加わった。施工管理の技術員として、それなりの経験を積んできたT.Sにとっても、まだまだ学ぶことが多いのだという。
「例えば、地下にコンクリートを打つ場合、型枠の使い方一つとっても、いろんな素材や工法があります。あらゆる工事で、これまでに経験したことのない技術・工法に出合うので、それ自体が楽しいし、勉強になるのです。」
高校生の頃、世界の名建築に惹かれて建築分野に進んだというT.Sは、今もなお好奇心に溢れた目で建築を見ている。
「中野囲町プロジェクトについては、社内でも注目を集めていたプロジェクトだったので、担当すると伝えられたときはすごく嬉しかったです。」
Episode
チームワークを重視し
五大管理(QCDSE)を徹底する。
T.Sの担当は事業所棟の建築で、施工管理の技術員として、仮設工事、地下のコンクリート工事、地上の鉄骨工事などを手掛けている。中堅社員として数人のメンバーに業務を割り振り、指示を出しながら、業務が円滑に進むよう努めている。
「施工管理の基本である五大管理(品質Quality・原価Cost・工期Delivery・安全Safety・環境Environment)を徹底するように心がけています。施工管理では、曖昧な状況を残さないことが重要だとよく言われますが、自分自身も、不明確な状態をそのままにするのは好きではありません。ただし、何でも自分で抱え込んでしまうと、業務が膨大になり、身動きが取れなくなる恐れがあります。そのため、自分が優先的に取り組むべきことを上司に説明し、チームのメンバーには、なぜその指示をするのかを分かりやすく伝えるようにしています。」
コミュニケーションを大切にして、チームワークで物事を進めていくことで、大規模現場ならではの難しさを乗り越えようとしている。
Episode
各工種の進捗を考え、
日々の施工計画書を作成する。
T.Sの重要な役割の一つに、日々の施工計画書の作成がある。工事主任が作成した1~3カ月スパンの施工計画書をもとにして、日々、何をする必要があるのか考え、1週間単位、1日単位の施工計画書に落とし込む。
「現場ではさまざまな工種が同時進行で動いていて、協力会社の数も多いです。それぞれの進捗を確認しながら、効率よく工事が進むように調整を図っています。」
そんなT.Sの何よりの楽しみは、竣工の時の感動だ。毎日の施工管理の仕事は煩雑で大変だが、建築現場は毎日、建物が組み上がっていく姿を見る楽しみがあり、そのクライマックスが竣工の日にやって来る。
T.Sは九州支店時代の入社1年目から3年目にかけて、福岡でホテルの建設に携わっていた。このときに味わった竣工の喜びが忘れられない。後にT.Sは、たまたま九州旅行に出かけることになった両親に、このホテルの宿泊をプレゼントした。息子が工事に携わったホテルに宿泊した両親は、ことのほか喜んでくれたという。
さて、中野囲町プロジェクトが竣工した時、T.Sはどんな喜びを味わうのだろうか。
「建物は建築物としての魅力もありますが、利用されることも工事に関係した者の喜びです。マンションで暮らす人、オフィスで働く人、商業施設を利用する人、そんな人たちの笑顔が見たい。」とT.Sは言う。
鉄骨やコンクリートだけではない。現場で働く者たちの竣工への熱い想いもまた、建物を支えている。
竣工したら、
父親に自慢したい。
「これ、私が建てました。」
低層棟 施工管理の視点
E.O
入社
Episode
垣根を作らず話すことで、
大事なことも伝えやすくなる。
朝8時。ラジオ体操を終えた作業員たちの視線は、ステージに立つE.Oの姿に集中していた。100人を超える人たちの前でE.Oは、マイクを手に声を張り上げる。
「本日の状況図について説明します。」
朝礼で説明する状況図とは、その日、どの場所でどんな作業が行われるのか、資機材の搬入車両が何時にどこのルートを通りどの場所に停められるのか、といったことを説明するものだ。これをスクリーンに映し出し、作業員に周知しなければならない。状況は毎日変わるので、状況図を作成し、それを朝礼で説明する作業は、E.Oの日課となっている。
「大人数に重要なことを伝えなければならないので、ポイントを絞って呼びかけています。」
また、1対1のコミュニケーションも大切にしている。現場を歩き回るので、あちこちで作業員とすれ違う。
「おはよう、という挨拶から始まりますが、明るく軽やかな雰囲気で話すようにしています。友達感覚というと年配の方に失礼かもしれませんが、垣根を作らない話し方で接していると、プライベートな話題を話してくれることもあり、距離が縮まるのです。フランクに本音で付き合うことで、大事なことも伝えやすい。それが工事の安全や品質に関わってくると思います。」
Episode
痛恨の発注ミス。だが、
作業員さんが助けてくれた。
に入社したE.Oは、11階建ての社員寮の建設現場を経験し、から中野囲町プロジェクトに加わった。中野囲町プロジェクトでは、施工管理の技術員として、山留工事、鉄筋工事を担当、現在は仮設工事を手掛けている。仮設工事では、安全で効率よく作業できることを念頭に、自分で計画図を作成し、資機材の手配と管理を行う。
ただ、時に失敗もある。ある日、作業員からこう告げられた。
「今日、搬入した足場だけど、部材が足りないので組み立てできないよ。」
一瞬、目の前が真っ暗になった。実は以前経験した社員寮の現場で使われていた足場と、中野囲町プロジェクトで使われている足場は種類が異なる。経験の浅いE.Oは、その違いを十分理解しておらず、一部の部材の発注数を間違えたのだ。
「すみません。私が‥‥」と言い掛けると、作業員がかぶせるように言ってきた。
「隣の現場で余っている部材があるはず。それをかき集めれば、なんとかなる。話だけつけておいてくれれば、オレたちが集めて持って来るから。」
中野囲町プロジェクトは複数の敷地に分かれており、他の敷地にも同様の足場が使われているので、余剰品があるに違いないというのが作業員の指摘だった。すぐに関連する工事担当者に連絡を取り、事情を説明する。結果、部材をかき集めることができ、工事の進捗に問題はなかった。
「作業員さんから助けられることも多いのです。日頃のコミュニケーションに手を抜かないからこそ、間違えた私を責めることなく、助けていただけたと思います。」
Episode
建築関係の仕事をしている
父親の姿が格好よかった。
E.Oは九州の出身で、父親は建築関係の仕事をしている。子どもの頃から、父親が働く現場を見に行き、大きな重機が動き回る様子を目の当たりにしてきた。「これは自分が建てたビルだ」と、いささか誇らしげに建物を見せられたこともある。
「仕事をしている父は、なんだか格好いいなと。それで私も建築の道に進みました。」
就職先として興味を持ったのは、東急建設が九州で大きなホテルを建てているところを見たことから。娘から就職の相談を受けた父親は「建築の道に進むなら、まずは東京で経験を積むといい。そのままそこで働いてもいいし、帰りたくなったら九州に戻ってくればいい。」と言って送り出してくれた。
中野囲町プロジェクトが竣工を迎えたら、E.Oは父親を東京に呼び出して、建物を見せるのだと決めている。
「これ、私が建てました。」
その時の自分は、少し誇らしげかもしれない。父親がどんな表情を見せるのか、そのリアクションが楽しみで仕方ない。