東急建設 TCFORECTIONリポート
森林の価値を木材生産にとどめず、地域の活性化や担い手づくりまで見据える。
東急建設は、川上の森林整備から川下の木造・木質建築までをつなぐ、新たな社会実装の形を描き始めている。
実証事業から事業化へ
東急建設はなぜ林業に挑むのか
東急建設が東京都あきる野市で進める森林整備は、約1年の実証事業を経て、本格的な事業化の段階に入った。収支や補助制度、行政手続き、施業上の課題が一通り見えたことで、次の展開が視野に入ってきたという。同社イノベーション推進部の藤田さんは「1年間の結果を見て、収支を含め、おおよそ想定通りの成果が出てきました」と話す。この取り組みの出発点は、同社が長期経営計画で掲げた第三の収益の柱づくりにある。構想は社内提案制度「ムーンショットコンテスト」から生まれた。林業整備に着目した理由について、藤田さんは「当社が長期ビジョンで掲げた提供価値のうち、林業は脱炭素と防災減災を具体化しやすいテーマでした。防災減災は掲げるのは簡単でも、何をやるのかが問われます」と振り返る。荒廃した山林の再生は、二酸化炭素吸収源としての森を守るだけでなく、災害に強い山づくりにもつながるからだ。今回の挑戦は、異業種への参入というより、経営戦略と社会課題が重なる領域を見極めた結果といえる。林業を新たな事業として育てながら、同時に森林をめぐる課題の解決にも踏み込む。その両立を目指すところに、この実証事業の意義がある。
現場で見えてきた林業の課題
スマート林業という解決策
実証事業を通じて浮かび上がったのは、林業の課題が伐採作業そのものより、その前段にあるという現実だった。森林は所有者が細かく分かれ、境界も曖昧なまま残されている。これでは面的な施業計画が立てにくく、作業道も通せない。機械を入れたくても、面積がまとまらなければ採算が合わず、結果として木を伐っても山に残す、切り捨て間伐にとどまりやすい。そこで東急建設が取り組んだのが、地権者との調整と境界明確化を起点とする集約施業だった。所有者を調べ、説明を重ね、契約を結び、バラバラの山をひとつの計画にまとめていく。藤田さんは「近隣の皆さんとの意見調整や、関係者をまとめていくところには、ゼネコンとして培ってきたノウハウが生きていると思います」と語る。そのプロセスは、駅前再開発にも似た合意形成の仕事だ。そうして初めて、高性能重機や遠隔操作伐採車、GNSS測量器、計画ソフトを組み合わせたスマート林業が現実になる。現場を担う安井さんも「機械は、まとまった面積があってこそ生きる」と強調する。東急建設は、森林を面で捉える計画力と調整力を土台に、林業の効率化と安全性向上を同時に進めようとしている。
実証事業で得た手応え
機械化は林業に何をもたらすか
実証事業は、決して順風満帆ではなかった。当初は40haのうち17haを対象に、作業道の開設と間伐を今年度内に進める計画だった。作業道の整備はおおむね予定通り進んだが、その後に本格稼働を見込んでいた遠隔操作伐採集材作業車「シン・ラプトルⅡ」は、導入直後のトラブルに悩まされた。工程は当初計画より延びたものの、安井さんは「調子よく動いているときのスピード感を見ると、狙っていた歩掛かりは確保できます」と手応えを語る。トラブルがあったからこそ、安定稼働時の可能性が見えてきたのだ。その意義は、省力化だけにとどまらない。林業では、木を倒す伐倒作業に事故が集中し、現場の大きなリスクとなっている。「危険な作業を機械化、無人化できれば、リスクは大きく減らせる」と安井さんは強調する。さらに、キャビン内で作業できる環境や、デジタルを活用した計画的な現場づくりは、「きつい、汚い、危険」という従来のイメージを変える可能性もある。安全性と働きやすさが高まれば、新たな担い手を呼び込むきっかけにもなりうる。機械化は、作業の効率化にとどまらず、林業の働き方そのものを変える試みでもある。
事業化の先にあるもの
森林で問われる東急建設らしさ
東急建設が見据えるのは、木材生産にとどまらない森林整備の姿だ。安井さんは「木を売るだけの山ではなく、Jクレジットや未利用材の活用、森林教育や体験の場づくりまで含めて、余すことなく価値を生み出す山にしたい」と語る。山を木材生産だけで終わらせない発想だ。その先にあるのは、森林や地域の活性化である。都心からもほど近いあきる野という立地を生かし、見学や体験を通じて森に触れる機会を広げることで、林業への関心を高める。それを将来の担い手づくりにもつなげていく。安井さんが一貫して語ってきたのは、林業のイメージを変えたいという想いでもある。安全で、計画的で、技術を生かせる仕事として林業を見せていくことが、持続可能な森林整備の土台になるという考えだ。
さらに東急建設は、森林を川上だけで完結するものとは捉えていない。整備した森から生まれた木材を、多摩産材として建築や木質化に生かし、山で生まれた価値を川下の利用へつないでいく。地権者調整、施工計画、安全管理、そして川上から川下までをつなぐ視点。森林で問われているのは、まさに東急建設らしさそのものだ。