東急建設

WOOD TREND!

木造高層化は、どこまで現実になるのか
京都大学・五十田教授に聞く、木造建築の合理性と普及の条件

2022年10月、P&UA構法共同技術開発グループは、本構法を用いて作成した10階建て共同住宅モデルプランで一般財団法人日本建築センターの評定を取得した。
同構法の共同研究者であり、木質構造の第一人者でもある京都大学生存圏研究所 五十田教授に伺った。

評価する側の視点から開発を見守っている

木造に限らず、新しい建築物を開発しようとする皆さんは、知見がないなかで苦労して設計しています。私は、そのような建築物が正しくできているかどうかを評価する立場にあります。評価する中で、最終的に見るのはモノではなく、人であるということをいつも感じています。もちろん、建築物が安全にできているかどうかを審査することは必要ですが、私は常に「この人に任せて大丈夫だろうか」という視点で見ています。P&UA構法共同技術開発グループは、様々な開発実績を持つ市浦さんと織本構造設計さんが組むと聞いていましたので安心してお引き受けしました。案の定、私は要所要所でアドバイスをする程度で開発が進んでいます。RC造やS造と比べ、木造は設計手法が確立されていない部分も多く、開発を進めていっても、審査の段階で「これは認められません」とつまずいてしまうことがあります。そうすると、再び最初からやり直しになってしまうこともあります。私は、このような問題が起こらないように見守っています。開発に携わるというよりも、私の役割はこの開発を評価する側の視点から見守ることだと考えています。

京都大学 宇治キャンパス 木質材料実験棟(木質ホール)。
CLTによる5階建て構造実験の様子。

木造建築物の合理性は6階建てに生まれる

P&UA構法は、当初から10階建てを目指していましたので、協力しがいがあるなと思いました。ただし、10階建てが普及するかどうかは別の問題です。コストが高くなるし、施工も大変です。講演などでよく話をしますが、木造建築物が普及する階数は、6階建て前後だと個人的に考えています。それ以上高くなると、木造以外の構造物に利点がありますから。ただ、最初から6階建てを目指すことは得策ではないとも思っています。高いレベルを目指して、それを低くした時にはじめて合理性が生まれるのです。

 木材の使用量は、コストに直接関わりますので、このプロジェクトに参加する前に材積を伺いました。当時、私が考えていた量よりも少なく、これならコスト的にも普及する可能性があると感じたのを覚えています。さらに、一般的には、「せっかく木で建てるなら柱も梁もすべて木で完結したい」という方向にむかいがちですが、このプロジェクトには、鍵となる接合部や地震時のエネルギー吸収などは、鉄に頼るという割り切りがありました。この方向性は、私が成功すると考える方向性と一致していましたので、安心してご一緒できました。

木造・木質建築のキーワードは普及

木材利用は世界的な潮流となっていますが、日本には特殊な事情があります。戦後植林した木材を少しでも多く使わなければならないということです。そのために、普及させる建築物を創り出していく必要があるのです。ヨーロッパでは、イギリスでCLTを使った9階建ての建物が建てられました。当時は、木造で9階建てが建つのかと驚きましたが、今は技術が進歩し、その時の半分程度の木材量で同じような建物が建てられるようになりました。実は、木造建築を普及させるためには、木材量を減らす必要があるのです。建物を1棟建てるだけなら、木材量が多くても国の補助金などに頼ることができます。企業のコマーシャルを目的とした建物なら、多少コストが高くても問題はないでしょう。しかし、木造建築の普及を目指すなら、1棟だけを建てることよりも、より多くの人々が利用しやすい、一般的な建築物を作ることが重要です。そのためには、コストや耐久性、安全性など、実用的な観点からも優れた建築物を提供することが求められます。私自身も、こうした取り組みを推進していくことが重要だと考えています。木造建築は、「普及」がキーワードです。

京都大学 宇治キャンパス 東側道路

P&UA構法は6階から9階建てがターゲット

P&UA構法は、6階から9階建て程度の木造建築物として活かすことができると考えています。地方都市の駅前には、そのような規模の建築物が多数建っていますので、これらの建物を木造に置き換えることができれば理想的です。この構法は、ラーメン構造と壁式構造を採用していますので、正面から見た時に空間を広げることができます。低層の建物であっても、事務所などの広い空間を取りたい場合には、この構法が生きてくると思います。

京都大学生存圏研究所 生活圏木質構造科学分野

五十田博教授 教授