東急建設

WOOD TREND!

構造の知が、木造建築の可能性を広げていく
東京大学・稲山教授に聞く、進化する木質構造の最前線

自身の作品のモックアップと稲山教授

公共から民間へと木造建築は拡大していく

以前は、木造建築物の高さが13m、軒高が9mを越えると一律に耐火構造にする必要がありましたが、改正後は、高さ16m以下かつ3階建て以下であれば、原則として木造でも耐火構造としなくてもよくなりました。木造ならではの温かみを感じられる、構造体の木を現しにした木造建築が、より創りやすくなったのです。
そもそも、 2010年の公共建築物木材利用促進法により、老健施設や幼稚園、保育園など、低層の非住宅分野での木造化が急速に進んでいました。今回の改正により、この流れが店舗などの商業施設や、オフィスなどの業務施設にまで波及していくでしょう。これまでは公共建築が中心だった木造化の潮流が民間建築へと届き始め、ますます拡がっていくと考えています。

「木造建築には大きな可能性がある」と語る稲山教授

RC造やS造より木造の方が耐久性に勝る面も

木造は弱いので不安、というイメージを持たれている方はまだまだ多いと思いますが、誤解されている部分も大きいと感じています。
例えば、耐久性。木造は劣化しやすいと思われていますが、構造体の木を外部に露出せず、防水・通気・換気をしっかり行い、地面近い部分は防腐防蟻処理木材を用いれば、一般的な室内環境で構造体の木を現しで使用しても耐久性上問題はありません。鉄筋コンクリートは耐久性に優れているとされてきましたが、コンクリートの中性化により中の鉄筋が錆びて膨張化し、ひび割れを起こす可能性があることが分っています。そういう点では、むしろ木造の耐久性の方が勝っているとも言えます。日本にはメンテナンスすることで建築後数百年以上経っている木造建築が多く存在していますから。

東京大学農学部キャンパス農正門に稲山教授の研究室はある
稲山教授の研究室がある五号館の表札

集中力と生産性を向上する木造建築の効能

木で創られた空間にいると、不思議と癒しや落ち着きを感じるという方は多いと思います。実際に、木造建築は人々の精神に好影響を与える可能性があるという複数の研究結果が提出されています。
例えば、愛知教育大学教育学部の研究におけるアンケート調査結果によると、RC造の校舎に勤める女性教師は木造校舎の教師より神経質になり、生理的にも好ましくない状態になっていることや、授業中の子どもの様子も、RC造校舎の子どもは木造校舎の子どもと比較して身体が疲れていたり、頭痛や腹痛などの身体の変調を訴える傾向が強いことなどが判明しました。また、観察対象校の子どもの情操を分析した結果、木造校舎の子どもの方が情緒的に安定しており、攻撃的でないことなども明らかになりました。
精神の落ち着きが、集中力や生産性の向上に対してよい影響を与えることに、疑いの余地はないでしょう。働き方改革の推進が求められる昨今において、こうした木造建築の効能は、学校などだけではなく、人々が快適に働けるオフィス環境の実現にも重要な役割を果たすと考えています。

RC造やS造を凌駕する優れたコストパフォーマンス

東京大学弥生講堂一条ホール

在来工法やツーバイフォー工法など、戸建住宅のノウハウを活用することで、 RC造やS造よりもコストを抑えて低層の木造建築を作る方法がかなり確立されてきました。前述した老健施設や幼稚園、保育園などは、むしろツーバイフォー工法で建てられているもののほうが多いくらいです。一般流通材の使用による低コストの中大空間創出なども、各社の技術開発により普及してきました。今後もこうした動きは加速するでしょう。

東京大学大学院農学生命科学研究科

稲山正弘教授

プロフィール

木質構造家。 10mを超す大スパンの架構を建築設計者とともに実現するなど、その活躍は多岐にわたる。著書である「中大規模構造建築物の構造設計の手引き」は、実務者必携の教科書と評されている。