TQ渋谷宇田川町
都市の制約を越えて実現した木混構造が、
都市木造の可能性をひらく。
「東急建設らしさ」を形にする 木混構造の構想
TQ渋谷宇田川町は、東急建設が保有する賃貸ビルの建て替えプロジェクトとして始まった。本プロジェクトの企画段階で同社経営層が求めたのは、「東急建設らしい建物」。プロジェクトを担う不動産事業部では、同社が掲げる3つの提供価値「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」を企画の軸に据え、検討を重ねていった。プロジェクトマネージャーの熊野さんは、「当初は省エネ機能の充実をメインとしていましたが、検討を深める中で、建設時CO2の削減にもつながり、自社が推進する木造事業の方向性にも重なることから、木造採用に舵を切りました」と語る。
企業として掲げる方針を都市の建築として表現する。その実践のひとつが、同建物の木混構造である。
都心狭小地の制約を読み替えた設計と計画
計画を具現化するうえで、大きな制約となったのが都心狭小地ならではの条件である。敷地は防火地域に位置し、前面道路が狭く、搬入できる木材の長さも限られた。コストや施工性に加え、オフィスとしての使い勝手をどう確保するかも課題となった。設計を担当した成富さんは、「建物全体を木造にすると執務空間にでる柱本数が増え、事務所のレイアウトにかなり制限が出てきます」と振り返る。そこで計画は、RCと木を適材適所で組み合わせる混構造へと整理され、木を見せる場所も井の頭通り側から視認性の高い南東角に集約された。さらに、RCとの取り合いや審査機関との協議など、設計段階での細かな調整を重ねながら、都市部の厳しい条件に応える木混構造へと練り上げられていった。
木を現しで見せる空間が生んだ新たな不動産価値
この木混構造は、空間演出にとどまらず、不動産としての価値向上にも結びついたという。木を現しで見せる空間が、建物全体の商品性を高め、賃料設定にも一定のプレミアムを織り込む要素になった。評価されたのは木の部分だけではなく、建物全体の印象や空間の質であり、それが入居判断にも影響を与えた。企画を担当した三科さんは、「賃料もプレミアム分を含め、相場より若干高めに設定しましたが、入居を検討していたテナントからも高く評価していただき、想定より早く満床稼働することができました」と振り返る。環境認証(DBJグリーンビルディング)の申請の際にも木の採用は評価され、環境性能と事業性の両立を示す結果となった。木を取り入れたことが、都市型賃貸不動産の新たな価値につながることを示したのである。
写真中左 / 東急建設株式会社 設計統括部 建築設計第三部 建築設計第一グループ 成富悠夏さん。
写真中右 / 東急建設株式会社 不動産事業部 不動産グループ グループリーダー 熊野宣弘さん。
写真右 / 東急建設株式会社 不動産事業部 不動産グループ 三科知也さん。
都市木造を社会実装へ導く実践知と認証材
本計画の意義は、厳しい条件の都心敷地でも混構造を使いながら耐火木造が成立することを示した点にある。大規模な開発ではなく、むしろ都市に数多く存在する狭小地や変形地でこそ、こうした実践知の蓄積が生きてくる。設計を担当した北條さんは、「耐火木造を一般化していくために必要な仕事のひとつだと思いってます」と語る。さらに今回は、森林認証材を用い、ゼネコンが管理に関わりながら認証取得を進めた点にも特徴がある。木材が、どこで育ち、どう加工され、どう使われたかを担保することは、木造建築を社会実装へ進めるうえで欠かせない。東急建設が重視するのは、まさにその点である。木を使うだけでなく、その背景にある森林や流通まで含めて捉えること。それが次の木造・木質建築に求められる視点である。
