東急建設

PROJECT @TOKYO

ROOFLAG賃貸住宅未来展示場

CLTの大屋根が象徴する展示施設
賃貸住宅の未来を示す体験型拠点

「本物の良さを本物で伝えたい」という大東建託の想いは、CLTパネルを用いた大屋根というカタチで成就した。

アイデンティティが表現された国内最大規模のCLT建築

大東建託は、賃貸住宅の着工戸数および管理戸数のシェアが業界トップの建設会社だ。設立から47年間にわたり土地オーナーに対して賃貸経営を提案し続けている。同社の特徴は建物というハードに加え、賃貸経営の管理、入居者の斡旋、税金の知識など、ソフト面も含めたシステムを販売していることだ。賃貸経営を営む土地オーナーは、様々なリスクや不安を抱えている。契約通りの予算で収まるか、建物が設計通りに建つか、完成後に入居者がつくか、建物はしっかり管理されるか。こうした不安の払拭を目的に生まれたのが「ROOFLAG賃貸住宅未来展示場」だ。同施設は、「賃貸住宅に何ができるのか」を追求し続ける大東建託の取り組みやメッセージを、ショールーム機能を備えた展示棟やモデル棟(実物)で紹介する賃貸住宅専門の総合展示場だ。国内最大級となるCLTの大屋根は、大東建託の新たなチャレンジを具現化する象徴となっている。同社商品開発部峠坂さんに伺った。

大東建託株式会社 商品開発部 部長 峠坂滋彦さん(写真左)、同部 企画課 チーフ 千野惠美子さん(写真中)、同課 須賀七海さん(写真右)。

「弊社は1989年から供給する賃貸住宅に木造2×4工法を取り入れています。木造が大東建託のひとつのアイデンティティということがあり、この施設にはどうしても木を使いたいと考えていました。加えて最先端情報の発信基地でもありたいという想いもあり、まだ普及はしていないけれど新しい木質材料と期待されるCLTをどうにか使えないかと、複数の設計事務所に提案いただきました。『MOUNT FUJI ARCHTECTS STUDIO』の原田さんから30度傾いたCLTの大屋根をご提案いただいたときには、よい意味で衝撃を受けました。本来プレゼンはどこの事務所に依頼するか決定するために実施するものですが、なぜか温かい気持ちになり、この案に決定したという表現が近いかもしれません。プレゼンというよりプレゼントをいただいた印象です。原田さん曰く、プラスティックやアルミ等、ピカピカでツルツルな、いかにも未来を想起させる材料が数多あるなかで、温かでどこか懐かしい素材である木で未来を考えたいという弊社の想いに共感してデザインしてくれたそうです」。

ガラスの存在感を抑制し、CLTの大屋根をまちと接続させたファサード。
4層を吹き抜けるアトリウムは、さまざまな用途に活用されている。
CLTだからこそできる構造を端的に表現したモニュメント。地域の方々や子どもたちに来館いただき、木が持つやさしさを実際に見て、触れて、感じてもらえるような施設にしていきたいと考えているという。

課題がわからないという課題にデジタル技術を駆使して挑む

「私は永く設計に携わってきて施工の経験もあります。それだけに現場で施工された松岡所長をはじめ東急建設の皆さんの苦労は計り知れません。工期の問題もありましたが、CLTをただ組みあげるのではなく、30度傾けて斜めにかけていくというプロセスが最大の難問だったと思います」。

国内にはこれほど大規模な屋根構造にCLTが採用された前例がなく確立された工法もなかったことから施工上避けて通れない複合的な課題解決は、まさに手探りからスタートしたという。東急建設は、施工と技術部門が一体となり、まず課題解決のフロントローディングをスタートさせている。

ROOFLAG賃貸住宅未来展示場のBIMデータ。施工の段階では、モバイルデバイスなどでデータが共有され、形状や作業部分の納まり、手順などを現場で確認することができる。

最初の課題はCLTパネルの組立手順と2ミリ以下の精度が求められる接合部の納まりだった。ところが二次元図面では、こうした課題の解決方法を具体的にイメージできない。そこで東急建設は、BIMソフトで128ピースのCLTパネルをモデリングし、3Dプリンタを使用して33分の1の模型を作成し、組立手順の検討を繰り返し行った。ボルトの穴まで再現された模型に番号をふり、どの順番なら組立てが可能か、どんなことが起こるのか、詳細な検討を重ねたうえで組立手順を導き出している。施工の現場を率いた東急建設の松岡所長に伺った。

「建築技術部や生産技術部など、社内の支援部署と私たち現場が中心となり毎週打ち合わせを行いました。テーマに応じて設計者にも参加してもらい、意匠上どこまで許されるか、構造上どこまで許されるか、三者が納得できる解決策を探していきました。例えば、128ピースのCLTパネルは、全体的なたわみ量を和らげるために接合部が規則的な位置にありません。各パネルの長さがまちまちなんです。構造思想を具現化するために約5ヶ月かけて施工に関する仮説を策定しました。仮説検証は実物大のモックアップで行い、3ヶ月で修正して本工事に入るというプロセスを経ています」。

組立手順検討の様子
最大の難問であった128ピースのCLTパネルを組み上げていくプロセス。東急建設の経験値を向上させた施工記録の抜粋。

同施設の施工計画はCLTパネルの中に仕込まれている金物を一切露出させないという意匠設計の方針に基づいて策定されている。施工上認められるクリアランス(隙間)は、パネルの両端にわずか1ミリずつしかない。実際にパネルをクレーンで吊っていくと、周りのパネルと擦れながらはめ込まれていったという。モックアップでは、こうした厳しい条件下における作業工程を確認している。

「CLTパネルの交差部にはボルトや金物が入っています。金物は溶接されていますので溶接部の盛り上がりを大工がノミで削って収めなければならないことが分かりました。径12ミリのドリフトピンは、12φの穴には入らないことも分かりました。構造設計者と協議し、12.5φとすることで問題を解決しています。意匠設計者からは、仮設の穴を一切空けないでほしいと念押しされていたんです。私たちもそうした設計思想に共感して、設計者の想いをなんとか叶えたいと考えていました。屋根が水平ならこれほどの苦労はなかったと思います。角度がついていたからこそ日々小さな問題に直面していました。RCのような確立された手法もなく、取り組みながら改善を重ねてきたことで無事に施工できたと考えています」。

隣接地に組み上げられたモックアップ。
CLT梁組立施工時の様子。座標(位置情報)のおさえ方が課題として挙げられていた。

実際の組立工程では、CLTパネルを正確に組み上げていく精度管理も課題に挙げられた。東急建設は、ここでもデジタル技術を用い、BIMデータから自動で抽出した位置座標と3D計測技術を精度管理に活用した。測量機器にトータルステーションを採用し、測量点の座標値がBIMデータから抽出した座標値に合っているか確認することで、精度を保った組み立てを実現している。

ROOFLAG賃貸住宅未来展示場の竣工写真。

前例のない施工をやり遂げた関係者の達成感

「最後の128ピース目を組み込む日に弊社の代表や関係者が集まり、みんなで見学したことが思い出深いですね。東急建設の方がセッティングしてくださって、細やかなお気遣いに感激しました。でも、竣工検査に向けた東急建設のふんどしの締め方は真逆でした。眼を見張るものがありましたね。『貴社の上席であろうとも来られては困る。現場は必死で工期と戦っているのだから物珍しさで見に来ないでくれ』という感じでしたから。そのおかげで予定通りにジャッキダウンの日を迎えることができたのですが(笑)」と前出の峠坂さんは当時を振り返る。

アトリウム空間を計画した際に実施した温熱環境解析データ。熱だまりとなるCLTパネルに囲まれた部分の温熱環境や、大空間における室内環境の快適性などを検証するシミュレーションが行われた。CLTパネルは深いグリッドを形成し、梁の中に溜まった熱は約70度近くまで上がる可能性が予測された。天井材に穴を空けて屋上に排気ファンを取り付け、熱を抜くことで40度程度に落ち着いたという。

国内最大級となるCLTの大屋根は、構造上すべてのパネルの組み合わせで成り立つフレームとなっている。組み上がるまでは三方向から支えておかなければならず、均一に組まれているように見えても木造である以上たわみがある。屋根の中心に近いところが最も弱く、支保工をはらった際のたわみは、事前の解析から最大24ミリ前後を目標値としていた。その程度のたわみであれば構造計算上はまったく問題はない。しかし、施工値がオーバーするとガラスが割れてしまう可能性がメーカーから示唆されていた。結果として実測値は26ミリとなり、そうした事態は回避できたという。前例のないCLTの梁づかいという未知の建築にチャレンジし、施工を成し遂げた関係者の達成感は計り知れない。

128ピース目のCLTパネルを組み込む施工の様子。

竣工した大屋根について尋ねると、木が生きていることを実感したエピソードを語ってくれた。

「引き渡しを受けた日の夜にパチーンパチーンと弾けるような音を聞いて、はじめは驚きました。木が収縮する音です。脱炭素やカーボンニュートラルなど、木の魅力に関しては、難しい言葉がよく使われますが、『生きている』という温かみや優しさ、これが一番だと思います」。

施工中にCLTの大屋根を支えた支保工。大東建託は支保工を取り外した際の精度をもっとも懸念していたが、東急建設技術研究所の支援により、ジャッキダウンによるたわみ量はほぼ構造設計者が計算していた数値通りという結果となった。
ジャッキダウンによる屋根荷重解放のシミュレーションデータ。

忘れかけていたことを思い出させてくれた東急建設の現場力

「私たちも技術者として仕事をしていますが、本社の開発部門にいると、どうしてもスーツを着て仕事をする時間が長くなります。そういう人間の目には、現場の方々の『背中で仕事をする姿』がとても格好よく映りました。これまで様々な現場を見てきましたから、その現場がどのように統率されているか、現場に入ればわかります。そういう意味で、この現場は本当に素晴らしかった。何事もなく図面通りに建物が完成するなら現場監督は要りません。段取り屋ではなく、そこに現場監督がいることには意味があります。現場の皆さまには、技術者の育成のあり方などを学ばせていただいた部分が多々あります。また、私たちは企画型の商品をつくっていますが、知らず知らずのうちに頭の中が大量生産大量消費の方向に向かっていました。ですが、このプロジェクトに関わった弊社の人間は、例外なく自責の念に駆られたと思います。東急建設のチームには、魂を揺さぶられる体験をさせていただきました。施主、設計者、施工者と皆それぞれの立場でさまざまな意見があり、建設中は喧々諤々とした時期もありました。ですが、最終的にはまたこのチームで『もう一棟やりたいね』という話になったと聞いています。月並みですが、東急建設の皆さんには『本当にありがとうございました』という気持ちでいっぱいです。コロナ禍で竣工式も小規模で行い、もてなしたかったのですがそれも叶わず、申し訳なく思っています。大規模な竣工式は、中止ではなく延期としています。いつかこの感謝の気持ちをカタチで表したいと考えています」。

支保工を解体する様子。
東急建設の現場担当者の集合写真。中央が松岡所長。
ROOFLAG賃貸住宅未来展示場のアトリウム全景。
大東建託株式会社 商品開発部 部長 峠坂滋彦さん
※ソーシャルディスタンスを確保してインタビューしています。

ROOFLAG賃貸住宅未来展示場

宿泊施設 純木造 準耐火
所在地
東京都江東区東雲
構造・規模
混構造(鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造)地上4階建て
延床面積
3,725.57㎡
工事種別
新築
竣工年月
2020年3月