東急建設

PROJECT @ISHIKAWA

のと里山空港仮設宿泊所・輪島塗仮設漆器工房

被災地に、木がつくる居場所を
モクタスキューブが支えた仮設建築の試み

能登の寒空に温もりを届ける、木造仮設ユニットという選択肢。
余門漆芸工房の現場と、東急建設・小西統括部長が取り組んだ開発の舞台裏をたどる。

余門漆芸工房 輪島塗伝統工芸士会 余門晴彦さん(手前)と余門弘美さん(奥)。

輪島塗職人が語る被災地のリアル

地震で自宅兼工房を失い、先輩職人の古い工房を借りて作業を再開したのですが、その建物は地震の影響で雨漏りもあり、設備も不十分。本格的な作業には向いていませんでした。仮設工房に入居できたことでようやく腰を据えて仕事ができる環境が整いました。この工房は床に杉板が使われていて、漆器をうっかり落としても割れにくい。柔らかくて使いやすいので重宝しています。プレハブの仮設住宅に入っている人たちからは「寒くて仕方ない」といった声しか聞こえてこない中、ここは暖房の効きもよく空気も冷えにくいと感じています。朝来たときに「なんでこんな温かいんや」と思ったほどです。輪島塗の仕事では温度と湿度の管理が命。寒いと漆の乾きも悪くなりますが、この工房では塗師風呂と加湿器を併用するなど、日々工夫しながら安定した作業環境を保てています。(余門さん)

余門漆芸工房の銘板。
被災した余門さんの自宅兼工房(輪島市河井町)。

備蓄・災害支援を見据えたモクタスキューブ誕生の舞台裏

能登半島地震で被災した方々のために設置された仮設住宅や仮設工房。東急建設は独自に開発した可搬型木造建物「モクタスキューブ」を提供している。この仮設建築の起点は東急建設小西さん個人の問題意識にあった。「建設会社として、社会のためにもっと直接的に役立てることがあるのではないか」。東日本大震災の際、仮設住宅や資材の供給が間に合わず、自らも仮設事務所の確保に苦労した経験が小西さんに問いを突きつけた。

2021年、会社の中期経営計画に「防災・減災」が掲げられたことで構想が具体化。新設の価値創造推進室とともにモクタスキューブの開発が本格始動した。「どうせやるなら、木造で、脱炭素や廃棄物ゼロにも応えられるものにしよう」。その想いは、従来の仮設建築の枠を超えた発想へとつながっていった。

ただし、震災時にすぐに応急仮設住宅を供給できたわけではない。備蓄体制や量産体制が整っていなかったからである。初期対応は叶わなかったが、その後、支援者宿舎や輪島塗仮設工房といった復興フェーズのニーズに対して、モクタスキューブは確かな存在感を発揮した。

輪島塗仮設工房。モクタスキューブ4ユニットを連結した60㎡の建物を2棟設置した。
能登半島地震復興支援者用宿舎。能登空港多目的広場に1ユニット(15㎡)タイプを20棟設置した。
モクタスキューブ4ユニット連結仕様の内観。
輪島塗伝統工芸士の作業風景。

仮設の常識を塗り替える再利用可能な木造ユニット

モクタスキューブの設計思想は、従来の仮設住宅とは一線を画している。応急仮設住宅は2年しか住まないという理由から断熱性や気密性などの性能が後回しにされがちだ。しかし寒冷地・能登においては「仮設住宅が寒すぎる」といった声が被災者からあがっていた。仮設の暮らしが被災者にさらなる負担を強いている現実がある。これに対しモクタスキューブは一般住宅と同等の性能の担保を目指して開発された。快適な温熱環境に加え、防音性や空間性も高いのが特徴だ。

工場内で建築中のモクタスキューブ 。
完成したモクタスキューブを運搬する様子。

また、今回輪島に設置された仮設工房の中には、敷地が狭く傾斜があるなど、他社が「できない」と断った物件も含まれていた。「難しい場所ほど当社に話が回ってくるんです」と小西さんは語る。施工条件の悪さを理由に断られた案件を東急建設が引き受けたのは、「快適性のある仮設こそが真に人を支える」という信念があったからだ。

東急建設株式会社 建築事業本部 営業推進統括部長小西貴晶さん。

さらにこのユニットは再利用を前提に設計されており、役割を終えた後も別の現場へと移設できる。仮設建築に対する使い捨ての常識を見直し、その価値を未来へつなげる。そんな新しい発想がこの小さな建築に込められている。

輪島塗仮設工房の施工中の様子。

モクタスキューブ プロダクト概要

サイズ
約4.4m×6.9m(約2.2m×6.9mの15㎡ユニット×2)の約30㎡※災害救助法の基本面積
高さ
約2.9m(居室内約2.3m)
付帯設備
トイレ、ユニットバス、キッチン、洗面、空調
性能
一般的な木造住宅と同等