南関町役場
地域の象徴としての木造庁舎
町の記憶を受け継ぐ公共建築
旧庁舎の老朽化に伴い計画された熊本県南関町の新庁舎は、旧庁舎から約300m離れた南関高校跡地に建設された。
母校の校舎が町のシンボルとなる、全国的にも珍しい試みを紹介する。
南の関にふさわしい新庁舎を
閉校した高校の校舎を改修増築した南関町の新庁舎が2022年1月に竣工した。新庁舎はRC造3階建て旧校舎2棟を改修し、新設した木造2階建て庁舎とコの字型に連結。改修した旧校舎棟は教室の黒板や棚など往時の学校の雰
囲気を残しながら庁舎として再利用している。新設した増築棟は町産のスギや県産ヒノキなどを多用した温かみのある造りだ。「町のシンボルとなる庁舎」「防災拠点となる庁舎」「利用しやすい親しみのある庁舎」という3つのコンセプトを掲げて新庁舎を設計した内藤建築事務所の岳川さんに伺った。
木造こそが南関らしさ その実現に向けた具体的対策
「新庁舎の基本設計は公開プロポーザルによって当社が選定されました。南関らしさが求められていましたので木造庁舎を提案したのですが、蓋を開けてみると当社以外どこも木造を提案していませんでした。当社はコンセプトのひとつに『町のシンボルとなる庁舎』を掲げて提案しており、私たちは木造という構造であればこのコンセプトに合致した庁舎づくりができるのではないかと考えました。南関は筑後国と肥後国の国境に位置した交通の要地であり、現在の南関町の中心部近くに関所が置かれていました。例えば、新庁舎の顔となる増築棟のファサードは、関所の冠木門(写真1)をモチーフに列柱をデザインしています」。いわれてみれば、大屋根を支える列柱は、確かに新庁舎の個性を印象づけている。公開プロポーザル時にはこれだけで町民の心を掴んでしまったのではないかとも思える提案だ。
「2つ目のコンセプトに『防災拠点となる庁舎』を掲げました。木造を提案すると決めた時点で耐震性を懸念する声があがるかもしれないと考えましたから。クリアすべき問題はいくつかありましたが、結果的に耐震性能一類(※1)を満たしています。地震以上に地域の人々が恐れたのは関川の氾濫です。南関は山に囲まれていますので敷地の隣に流れる関川に水が集まってきます。過去に被害にもあっていましたからその対策としてレベルを1m程度あげることを提案して実現しました」。また、防災拠点として消防署や防災拠点センター、備蓄倉庫などの施設も敷地内に集約している。
新庁舎の随所に仕掛けられた 竹の町、南関を想起させる工夫
「3つ目のコンセプトは『利用しやすい親しみのある庁舎』です。この実現に向けて、町民の窓口となる機能を木造である増築棟に集約しています。開庁後、町民の方々が見学に来ているようで、『窓口が集中しているので便利』『木の香りや温もりを感じる』という声が役場に届いていると聞いています。待合スペースの開口部にしつらえた格子の意匠はもともと構造体で検討していましたが木の構造計算が難しく、最終的に意匠として影をきれいに落とそうと考えました。増築棟は西向きですから、西日の活用として竹細工を意識して意匠をデザインしました。南関は竹林が多く、竹細工も盛んです。親しみを語る上で竹は欠かせないキーワードだと考えていました。議場の議長席背面(写真7)にも竹をあしらったモニュメントを象徴的にデザインしています」。
木造・木質建築が越えたい法的ハードル
2010年の木促法の施行以来大規模木造建築に関する法整備が進められてきたが、新庁舎を計画するような実際の運用に際しては、多数の疑問が出たと同氏はいう。
「一つひとつ解釈をお伺いするために県庁や確認申請機関に何度も足を運びました。それが最も苦労した点です。木造ですから、現場で納まらない箇所が出てきたり、役場の事情で変更も出てきます。その点は東急建設さんに迅速に対応していただいたので非常に助かりました。ただひとつ、不燃材の内装制限により、天井に木の梁を現せなかったことが大変残念です。概ね提案通りの建物になりましたが、天井だけが全然別物(写真4)です。木造・木質建築を増やすには法規制の緩和が必要だと感じています」。木造建築物における木の現しに関しては、まだまだハードルが高いのが現状だ。
