東急建設

PROJECT @IBARAKI

日立建機株式会社土浦工場事務管理棟

大規模木造がつくる働く環境
企業施設に広がる木造オフィスの可能性

【カナダ林産業審議会(COFI)/カナダウッド主催 COFI木造建築デザインアワード入賞建築】
【ウッドデザイン賞2021 ハートフルデザイン部門(建築・空間分野)受賞建築】
2021年2月、茨城県土浦市 神立工業団地に、ひと際美しい大規模木造建築が誕生した。
延床面積5,000㎡を超える日立建機株式会社 土浦工場 事務管理棟の全容に迫る。

日立建機株式会社 土浦工場 事務管理棟全景。

従業員満足度向上を目指し 働きやすい職場環境をつくる

2018年6月、働き方改革関連法が成立。この流れを受け、日立建機は雇用拡大や従業員満足度向上を目指し、土浦工場のオフィス環境の整備を計画した。この計画は部門毎に分科会が設置され、若手従業員の意見を積極的に取り入れるボトムアップ型のプロジェクトとして推進された。

設計を担当した日立建設設計は構想段階からこのプロジェクトに伴走し、従業員ワークショップを実施。「多様性」「快適性」「コミュニケーション」という3つのコンセプトを抽出し、これからのオフィスのあり方を模索していった。

室内天井と同じシナ合板がフラットに外まで伸びている。

2018年といえば、東急建設が「木心地のよいまちづくり」を目指して木造建築事業部を新設、「モクタス」を立ち上げた時期だ。この頃、3千㎡を超える大規模純木造建築は皆無に等しく、そうした状況下において当初システム建築を検討していた日立建機は、環境に対する配慮を優先し木造建築に舵を切った。
この英断が結果として従業員満足度向上に繋がっていく。入居後、当時の在勤者573名を対象に行った社内アンケートでは、96%の従業員から「満足」という回答があったという。

耐火構造と準耐火構造を適切なバランスで同居させる

事務管理棟は約700人の従業員を受容する規模として5千㎡超の延床面積が求められた。3千㎡を超える建物は無条件で耐火建築物とする必要がある。こうした耐火要件に対する最適解を導くこと、それが設計者の腕の見せどころだ。そこで日立建設設計は、建物中央部に90分耐火構造を設けて建物を南北に分割し、南北棟それぞれを3千㎡以内の準耐火構造とする建物を提案(左図参照)した。RC造やS造ではなく、各棟を全て木造で仕上げているところがポイントだ。構造体の木造化は建物の軽量化に繋がり、基礎工事のコストを削減できる。

計画は大規模木造建築のメリットを最大限に享受して進められた。

照明の光に木が浮かび上がる幻想的な光景。

周囲の景観と調和する 表裏のないファサードデザイン

日立建機土浦工場は約46haという広大な敷地に広がり、竣工した事務管理棟は敷地全体の顔となる工場入口に佇む。敷地内ではエンジニアリング棟の建設も進められており、将来は警備所の位置や各棟への動線が変化するという。こうした背景から事務管理棟は、企業の新たな顔となるだけではなく、前面道路や来客動線、従業員動線など、四方からの見え方に配慮して、表裏のない均質性のある佇まいを目指した。シンメトリーな建物の配置計画を活かし、水平性を強調したファサードが特徴的だ。

設計を担当した足立さんが語る。「主張する建物ではなく、周囲の工場群に溶け込むデザインを心がけ、アルミパネルとガルバニウム鋼板を外壁に採用しました。当初は木造らしくないという意見もいただきましたが、景観との調和やメンテナンスを考慮した結果、軒と天井の繋がりで木造らしさを表現しようと考えました。軒による日射遮蔽は、環境面への配慮です。900ミリのピッチで配置された柱は燃えしろ設計の現しですから、夜間に外から見ると照明の光によって木が浮かびあがり、前面道路からも幻想的な光景を眺めることができます」。

シナ合板が印象的なエントランス。

木を随所にあしらった オープンな室内空間

「執務空間は一人あたり10㎡を確保することが望ましいといわれますが、この建物は平均12・5㎡のゆとりを実現しました。通路も広めにとっています。当初は完全空調のFix窓を想定していたのですが、コロナ対応として開閉できる窓を随所に配置しました」と神原さん。執務室のある南北棟は、「大空間」「大開口」「現しの柱・梁」が特徴だ。通常、木造建築ではこれほど大きな開口を設けることが難しい。そこで長手方向に構造ブレース材を意匠として採用し、大開口を実現。自然採光を積極的に取り込んでいる。部門毎に分かれていた執務室を集約した大空間は、コミュニケーションが取りやすく業務効率も上がっているそうだ。フラットに繋がる室内の天井と外の軒に、同じシナ材を採用したことも特筆しておきたい。内外の境界を曖昧にしたことにより、開放感がより一層際立っている。

中央コアと南北棟の建物を貫くコミュニケーションエリアは、従業員同士の協創スペースとして活用されている。その象徴となるキッチンカウンターは、森の記憶を継承する試みとして事務管理棟を建設するために伐採した既存樹サクラの木を用いて造作されている。

北棟2階の執務室。
ハイサイドライトから降り注ぐ自然光が印象的な明るいコミュニケーションエリア。
既存樹で造作されたキッチンカウンター。

木構造による一般建築の施工に万全な体制で臨む

同じ用途の建物でも木造とS造では図面の見方から細かな納まりまでの全てが異なる。現場で建方を行う専門職もS造は鉄骨鳶、木造は大工だ。事務管理棟のような大規模木造建築の現場では、両者の協働なしに施工することは難しい。

「東急建設は木造とS造の経験者を二人ずつ現場に配置して、各人の役割を明確にしながら現場管理を行いました。例えば、私の仕事は全体の大きな流れを俯瞰することです。通常は効率よく建物の端から工事を進めますが、今回は中央コア棟から建方を行い、外壁部分に石膏ボードを張った後に南北棟の作業を同時に進めました。これにより当初計画していた建方日数を2週間近く短縮しています」と現場を指揮した小川所長は語る。実際に作業を行う木造建方専門の大工の多くは大規模木造建築の作業経験が少ない。そのため、今回作業に従事した7人の大工は施工計画会議に出席し、一般建築と同様の安全意識を持って作業に取り組んでいる。梁のスパンが短い木造建築の現場は床貼り前に開口部としての認識不足を補う安全対策が必須だ。現場には大規模木造建築ならではの専門知識・スキルが多々あるようだ。

建方の施工状況。土台、1階柱、梁、2階床合板を貼り、足場をせり上げて2階建方を行う。
水平ネットによる安全対策。

従業員が誇りに思える 大規模木造建築という英断

「引越時や執務中に『香りがいいね』という声をよく耳にしました。さまざまな空間に木の梁が前面に押し出されていますので『この角度から見る事務管理棟が一番好き』など、従業員同士で感想を話し合っているようです。アンケートでも『木の温もりや安らぎを感じる』『執務室の大きな柱に違和感があったけれど実際に仕事をするといいね』など、さまざまな声が寄せられていました。我々より上の世代の人たちは木造の小学校を経験していますが、若い人たちにはそういう経験がなかなかありませんのでとても新鮮だったと思います。今のところ木造のデメリットは思いつきません。周囲の神立工業団地内でも特異ですがこの建物を誇らしく思います。振り返ってみれば地鎮祭後に国内ではコロナが拡大し、工事を中断するなど東急建設さんは現場運営に苦慮する場面がたくさんありました。短い時間の中でコロナ対策にもご対応いただき、作業員の感染者はゼロ、労災もゼロです。経営幹部も『よくやっていただいた』と申しております」と山崎さんが締めくくってくれた。

屋根をかけ終えた作業現場。大規模木造建築ならではの事象として、建方の期間中に降る雨対策が挙げられる。
日立建機株式会社 人財本部 総務部担当部長(茨城地区担当)山崎吉久さん(写真右)と総務部 茨城総務グループ 庶務係主任 神原浩さん(写真左)
※所属部署・役職は取材当時のものです。また、ソーシャルディスタンスを確保してインタビューしています。
株式会社日立建設設計 設計本部 第一設計部主任 足立義幸さん(写真右)
同部 部長 田中裕和さん(写真中)
東急建設株式会社 東日本建築支店 第二建築部 小川正男さん(写真左)

日立建機株式会社 土浦工場事務管理棟

所在地
茨城県土浦市神立町
構造・規模
木造地上2階建て
延床面積
5,468.01㎡
工事種別
新築
竣工年月
2021年2月